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第十話:闘いの結果

 暗闇の中から意識が浮上した頃には既に太陽は沈み、まるで星の煌きだけが支配しているかのような目の前一面が星空で埋め尽くされていた。


「綺麗だ」


 思わず言葉が零れ落ちた。別に前の世界で星に興味があったわけでもなかったし、まともに星空を見上げた記憶すら思い出せないが、それでもこの星空は凄く心に訴えかけてくる様に心臓を熱く鼓動させる。解放感、達成感。そんな言葉にしにくいものを今感じている。魔物との闘いを経て生き残る事が出来た事でこの世界での生を熱いほど感じている。前の世界では生きていくだけで息苦しかったが、この世界ならやっていけるという確かな実感があった。


「……あの、わたしは奴隷ですのでそんなことをいわれても困ります。いえ嬉しくない訳ではないのですが、むしろ勇者様に綺麗だなんて言われて光栄の極みですが、勇者様の為にもあまり奴隷なんかと親しくしない方がいいと思います。いえ決して勇者様を否定しているわけじゃないのですが、民衆的には奴隷なんかと……」


 へっ?

 何かが頭の上でぼそぼそと喋っていた。視線を目の前から頭上の方にずらしていくとそこにはちびっこの耳まで赤く染まった顔があった。ちびっこと見つめ合う形(ちびっこの目蓋は閉じているが)になると同時に頭には地面にしては柔らかすぎる感触がある事に気付く。どういう状況か確認するべきだと意識が向かう前にもう一人の声が怒鳴った。


「ユウ!!起きると同時に女の子を口説くってどういう事よ!!というか、奴隷を口説くってなに考えてるの!?ここに!!ここに可愛い女の子がいるじゃない。なんで、どうして、一緒に戦った美少女より奴隷の方を気にするのよ?だいたいゴブリンリーダーに真正面から突っ込むなんて馬鹿じゃないの、ユウがいくら勇者だからって……」


 その場の明かりは星だけかと思っていたが、顔を横向けるとそこには焚き火の明かりとその近くに座りこちらに向かって怒鳴っている桃色の姿が目に映る。横を向いた時、頭に感じていた柔らかい感触はちびっこの膝であると気付く。いわゆる膝枕状態である。どうして?という気持ちもあるが、きっと心優しいちびっこが地面は堅いからという事でしてくれているのだろうと思っておこう。


 でも、良かった。二人とも無事だ。所詮、二人とも偶然一時的に行動を共にするようになっただけだ。今後俺と深く関わるわけでもない人物だ。ただの他人である。それでも、それでも俺が俺であるために、勇者であろうとする行動が間違えていないんだと二人の笑顔が心に沁みてくる。


「……いえ、分かっています。こんな未発達な身体でたとえ奴隷だとしても私だって15歳の乙女です。あれですよね、殿方は我慢できないと聞いています。いえ、みなまで言わなくても大丈夫です。私みたいな奴隷ごときに綺麗だってことはそういうこと致したいってことですよね。目の前には豊満(ごく一部)な身体をした淑女のイチカ様がいますし我慢できなくなったとしても仕方ないですよね。そこで奴隷なら手を出しても問題ないと。仕方ないですよね、ええ仕方ないです。でも私は一応商品でして、いえ、嫌だってわけじゃないんですよ、助けられたこの命貴方様の為なら何でも出来ます。しかし傷物になったら商品の価値がなくなるといいますか、一度致すと調べたらばれてしまうと申しますか、最初だからこそ跡が残ってしまうと申しますか……」


「聞いてるのユウ!!あなたがいくら強かろうとレベル2なのよ。それなのにどうしてあんな強敵に立ち向かうのよ。一度死んだらそこで終わりなのよ!!今回は勝てたから良かったもののそうそう上手くいかないわよ。もし、もしユウが死んでいたらっ、ぐすっ、もうちょっと周りを頼ってもいいのよ。うぅ、ぐすん。それはあの時は私が頼りなかったけど。ぶぇえ、逃げるって選択肢だってあったんだから、うえん。死んじゃったらそこで終わりなんだからぁぁ。うううえっぇええぇ……」



 さて、意識を取り戻し現状を把握できていると思うんだが、どういう事だろうか。いや、きっと現状を把握出来ていないんだ。意味が分からない。

 ちびっこは依然小さな声で聞こえるか聞こえないかの音量でくねくねと身体をくねりながらしゃべっていた。ぶっちゃけ少し気持ちが悪い。

 桃色は怒鳴っていたと思っていたのだが、いや、確かに怒鳴っていたのだが、途中から泣き始めていた。やはり、意味が分からない。

 俺は理解するのを諦め、ため息をついた後二人が落ち着くのを待とうとそのまま目を閉じた。



 次の日、朝日が顔を出した頃俺たち三人は動き出した。ちびっこを連れてシギルラに戻る為だ。


 昨日の晩は二人が落ち付くのを待ち、俺が意識を失ってからの動向を簡単に聞いた。その後は特に魔物も出ず、焚き火に野営の準備を行っていたとの事だ。ちびっこは目が見えず何も手伝う事が出来なかったのでせめてという事で膝枕をしていたらしい。


 魔物の討伐部位は桃色が既に剥ぎ終えていた。この討伐部位は魔物によって決まっており、ギルドに持っていくことでその魔物を討伐したことの証明になり、買い取ってもらう事も出来る。魔物によっては討伐部位だけでなく様々な部位が素材として買い取りや回収の依頼を出されることもあるらしいがゴブリンは討伐部位の牙しか役に立つものは無いらしい。


 説明を聞きながら、身体に以上はないか動かしながらチェックしていく。横腹から胸にかけて痣になっており痛みはあるものの命や動きに支障が出るほどのものではないので安心しようとしたところで動揺してしまった。ネックレスが無いのだ。魔王から命からがら逃げ切る事が出来た立役者である転移のネックレスだ。恐らく魔王城からくすねてきた宝具の中でも一位二位を争うほどの使い勝手が良く、貴重であろうものだ。あれがあるかないかでは生存率が著しく変化する。たかがレベル2の人族が魔王から逃げる事が出来るほどの物なのだ。決してなくしてはならないものである。


 胸のあたりに手を当てて顔が真っ青になっていたのに気付いたのか。桃色があるものを手渡してくれた。琥珀だ。ネックレスとしての形は失っていた。その琥珀を注視してみると、


 転移の琥珀

 「転移」の後に地名を述べる事でその場所へ転移する事が出来る。転移後琥珀は割れ使用できなくなる。


 転移のネックレスの核はやはり琥珀であるようだ。ネックレスの形を維持しなくても琥珀さえ無事なら転移は出来るらしい。どうやらゴブリンリーダーの一撃で俺が吹っ飛ぶと同時にネックレスも千切れ飛んでいたのを桃色が気付いて集めてくれていたようだ。有難いことだ。せっかく小さくなったのだから傍目からでは見えないところに隠し持っていつでも転移できる状況を作っておくことにしよう。


 その日は俺と桃色で、交互に見張り兼焚き火の番と睡眠を行う事に決めて一日を終えた。



 シギルラに向かっている途中、ちびっこが体調を崩した。たたでさえ年齢の割には小さく、やせほせった身体で体力がないちびっこには、奴隷商にいた時の魔物に、ゴブリン達と二度にわたる魔物の襲来は心身ともにきついものがある。さらに目が見えないのだからその恐怖は比べ物にならない程であろう。その状態で歩きでの街への移動となれば、体調を崩しても仕方がない。高熱で立つのも覚束なく、寒さで震えている状態だ。


 ちびっこは俺が背負って街に向かう事にした。それでも、ちびっこは奴隷ごときが勇者様のお手を煩わせるわけにはいきませんと言い、自身で歩こうとしていたが、桃色と一緒に説得する事が出来た。


 やはり、なんだかんだで桃色は優しかった。ちびっこを俺が背負う時もちびっこの状態を確認して歩けないと分かれば俺と一緒にちびっこを説得したし、シギルラに向かって歩いている時も熱で不安に苛まれたり、寂しくないよう喋り相手にもなり、水は飲みたくないかと苦しくないかと定期的に気に掛けてくれていた。


「あっ、そうだ」


 索敵術で周りの警戒も怠らず、俺、桃色、ちびっこは喋りながらも着実にシギルラに向かっている時に桃色が思い出したかのように声を上げた。自分の荷物の中から魔力板を取り出し、一度折り手のひらに乗せた。魔力板を更新する動作である。


「やった。レベルが上がってるよ。ユウはどう、確認してみなよ。あれだけ倒したのだから2つぐらい上がっているんじゃない、いや、ゴブリンリーダーすら倒したんだから3つ上がっていてもおかしくないはずよ」


 嬉しそうに桃色が言った。なるほど、確かにレベルの事をすっかり忘れていた。いや、忘れたわけではなかったが魔物を倒すとレベルが上がるという流れを知らなかったので放置していたのだ。確かに俺のステータスチェックで見てみても桃色のレベルは8になっており、昨日見た時よりレベルが一つ増えているようだ。


「街に戻ったら見てみるよ」


 今はちびっこを背負っておりわざわざ魔力板を取り出すのも面倒なのでそう答える。しかし、俺には鑑定のスキルがあるのだから魔力板を取り出す必要は無い。街に戻ったらと言いつつも俺はこっそり見る事が出来る。

 なぜだろう。こういうのを見る時は楽しくて思わず微笑んでしまうのは前の世界の住人でゲーム感覚があるからだろうか。いや、さっき桃色もはしゃいでいたしどの世界でも共通の事だろう。恐らく自分が成長するのが目に見えて分かるから喜びもひとしおといったところなのだろう。

 俺はさっそく自分のステータスのチェックをする為に身体の一部を注視する。





 ―――えっ?

 理解が出来なかった。意味が分からなかった。全身が粟立ち、冷え汗が止まらずに流れ始める。心の奥底で燃え上がっていた炎が少しずつ言葉に出来ない感情に蝕まれていくのを感じる。






 川越優 Lv:2


 状態異常:[呪]血脈封印(解呪不可)


 スキル

 紋章術

 契約術

 破棄術

 鑑定

 索敵術


 称号

 魔物殺し・魔王の卵・勇者の卵・召喚されし者・美貌の持ち主・正義の欠片・女性の味方・八方美人・女性の敵



―――俺のレベルは1つも上がっていなかった。

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