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第一話:プロローグ[もし、もう一度があるのなら]

 皆仲良くすれば良いのに、ずっとそう思ってた。

 だけど、どうせ無理だろうとも、誰にもそんな事出来るわけがないとも分かっていた。

 そんなどうでも良い、身も蓋もない事を考えているただの学生だった。

 どこにでもいるただの学生だった。それが川越優という人物であった。

 


 腹部に刺さった包丁が痛いと感じるより熱いと訴えかけてくる。

 視界が霞んでゆく、意識が消えゆく中、自分の人生ってなんだったのかなと考えてしまった。


 小学生低学年の頃は皆で仲良く遊んでいた。

 特に誰がどうとか考えずに感じたままにいろんな子と遊んでいた気がする。

 学校のグランドで、公園で、公民館でと色んなところをはしゃぎ回っていた。


 小学生高学年の頃、世界と自分は少しだけズレているかもしれないと感じた。

 授業中に後ろの席から投げ込まれたくるまれた小さなメモ用紙。その紙に書かれていた名前が誰だったかはもう覚えていない。


「○○と○○。今日から無視しようぜ。読んだら次の人に回して」


 意味が分からなかった。どうしてそんな事をする必要があるのか分からなかった。

 その日は授業が終わってから学級会が開かれた。俺が先生に言ったからだ。

 結局誰が書いて回し始めたかは分からなかったが、次の日から誰かが無視をされるような事は無かった。

 子供ながら良い事をしたと自分で自分を誉めていたのを覚えている。

 何人かは何故かぎこちない態度を取るようになっていたが、俺にはそれが何でか分からずにしつこいぐらい喋りかけていくといつの間にか元通り楽しく遊ぶようになっていた。

 

 中学生の頃、世界は自分とは果てしなくズレていると気付かされた。

 皆で楽しく。それが出来なくなっていたから。

 中学生になって一か月も経たないうちに明確なグループが形成されていた。

 俺は持ち前の人懐っこさからクラスも関係なしに様々なグループの中で友人を作って行っていたが、ある日いじめられていた男の子を見つけてどうしても見知らぬふりをすることが出来ず、その場にいた奴らを糾弾してしまった。

 何より、いじめていた奴らは良く遊んでいたグループの子だったからこそ悲しくなっていた。

 どうしてそんな事をするんだ、皆で仲良くすればいいじゃないか、いじめなんかかっこ悪いよ、そんなことを言ったような気はするが、それに対する返答は


「熱血野郎、何本気にしちゃってんの、正義の味方かなんかかよ(笑」

 

 と言ったセリフであり、

 次の日から俺と喋ろうとする友人のほとんどが目をそらし、用事を思い出したかというように離れていくという対応であった。いじめられていた子でさえも。

 友人っていうのはこんなにも簡単にいなくなるものなのか、友情ってのはこんなにももろく崩れ去るものなのか、俺には訳が分からなくなっていた。


 高校生になったら、もう世界に自分は不必要ではないかとすら思えてきた。

 入学してから一か月も経たない内に中学の頃の噂が何故か広まり、結局高校生になっても俺の周りの状況はほとんど変わらないように思えた。

 それでも中学、高校となんとかやってこれたのは小学生の頃の友人とは仲が良いままで、週末には遊ぶことがあった事と、高校になってからは女の子は別に無視する事がほとんど無くなったからである。

 もともと顔のつくりは綺麗な方ではあったが女顔だった事もあり、中学の頃はほとんど色恋沙汰は無かったものの高校に入ってからは男らしく成長したかは分からないが急に告白される事が増えた。

 友人がほとんどいない状況だったので、開き直ってというか、初志貫徹と言うべきか、中学生時代よりいじめを見かけたらすぐに対処するようにしていたのでそんなところでも好感を得ていた事もあったらしい。


 けれども、告白は何度もされていたが最初の頃は全て断わっていた。

 別に好きではない娘と付き合うのはその娘に悪い気がしてならなかったし、人を好きになるというのが俺にはあまり分からなくなっていたからだ。 

 俺を無視している奴らの言うところの「正義感(笑」がそんな事をするべきではないと思わせていたから。

 告白されては断わるそんなリズムが変わったのはある女の娘が断った後もあきらめずに問い詰めてきた事があったからだ。


「他に誰か好きな娘とかいますか?」

「いや、別にいないけど」

「私の事嫌いですか?」

「いや、嫌いではないよ、好きでもないけど」

「じゃぁ、嫌いじゃなければ私と付き合いましょうよ」

「いや、そんな軽い気持ちで付き合うなんて君に悪いよ」

「あっ、私が重い気持ちなんで、二人合わせればちょうど良くないですか」

「いや、どういう意味だよ」

「先輩、重く考えすぎですよ。軽い気持ちの先輩が重く考えてどうするんですか。私みたいに重い気持ちでも軽~く考える事も出来ますよ」

「……」

「嫌いでなければ付き合ってみても良くないですか、付き合ってみて合わないと思えば分かれれば良いし、付き合ってみて悪くなければそのまま付き合ってみれば良いじゃないですか。お試しですよお試し。今ならなんとこんな初心で無垢なかわいい子がど~んと付いてきますよ。いかがですか!?……チラッ、チラッ」


 思わず笑ってしまっていた。こんなに笑ったのはいつ振りだろうか。わざとらしく声に出して、チラッ、チラッと満面で笑いかける初心な娘なんているもんだろうかと可愛らしく思えた。

 じゃぁ、付き合ってみようか。その一言がすんなり自分の口から出たことに少し驚きながらもいろんな考え方があるもんだなと楽しく思えた。


 初めて彼女が出来て三か月経ったころだろうか。

 ほとんど友人がいない俺の生活スタイルに彼女がいるという事は思った以上に、今まで以上に楽しい高校生ライフと言うのを過ごすことが出来ていた。

 自分でも思った以上に彼女の事が好きになっているんじゃないだろうかと感じ始めていたころふと教室から中庭を見下ろしてみるといじめられている女生徒といじめている三人の女生徒が目に入った。

 三人が一人の女生徒に暴力を振るっている。

 どうしてこうも人は仲良くする事ができないのだろうかと、絶賛ほとんどの学生と仲良く出来ない俺が考えるべき事じゃないかもしれないなと思いつつ、それでも助けてあげたいと中庭の方へと足を運んだ。


 件の女生徒たちが目に入り、声を掛けようとしたとき足が止まってしまった。

 胃の中のものが暴れ回り、吐き気、頭痛に襲われてしまった。気持ちが悪い。

 ただその感情だけに全てが支配されついには足に力が入らず、膝をつきその場で吐いてしまった。

 その場で見た光景は理解している。仕方がない。どうする事も出来ない、仕方がないのだと理性では考えているものの、心の奥底、真に深い部分では決して相容れないと思い知らされた。

 

 その光景は自分の彼女がいじめられている女生徒を見てみぬふりをしていたとこだった。

 別に彼女が女生徒をいじめていたわけではない、ただ渡り廊下を歩いている彼女とその友達がいじめの場面を見て、けれどもそ知らぬふりで足早に廊下を渡り切って行っただけだ。

 今までの経験で分かっている。いじめなんかに関わりを持つことは自分がいじめられる可能性があるという事を。自分の彼女がいじめられるような事なんて絶対に嫌だ。

 仕方ない、どうする事も出来ない。

 だけれど、だけれども。


 その日俺は彼女と別れた。


 それからは告白されてはとりあえず付き合うようにして、他の誰かに告白されたら、今までの彼女とは別れて新しい娘と付き合うようなそんな高校生活を送るようになっていた。

 誰か好きになれる人がいるかもしれないからと、だけど結局最初の彼女より長く続いたことは無かった。


 何人目かの彼女は中学の頃の同級生らしく、そういえば、と中学の事を語ってくれた。

 中学の頃俺が糾弾したいじめっ子の一人はどうやら、金持ちか国会議員かの息子であったらしく誰も逆らえず、いや、逆らいたくなくてほとんどの人が手のひら返しが如く態度が変わったらしいとの事だった。

 それが分かっていたらもう少しうまくやっていたのに、と思ってしまったが、すぐに思い直した。

 結局知っていたところで誰かがいじめられているような場面を見てしまったらどうせ俺は見て見ぬふりなんて出来ないのだろう。

 今までの人生を振り返って自分でも不器用な生き方だとは思うが違う生き方なんてきっとできないだろうと感じた。

 

 結局世の中金か、権力か、他人の視線かで大体成り立っているのかもしれない。

 みんなそれに良い感じにこびへつらう事で上手に生きていくのであろう。

 自分には出来ない生き方だが大多数の人がそういう生き方をするのは仕方がないとも思う。


 高校二年生、夏休み、八月二十三日、午後十一時、

 昨日付き合い始めた彼女を家に呼んで遊んでいる際、こんな夜遅くに部屋のチャイムが鳴った。

 こんな時間に誰だろうかと部屋のドアを開けてみるとそこには昨日別れた元カノが笑顔で立っていた。


「どうし…………」


 どうしたの、その一言を言い切る前に俺の腹部には包丁が刺さってあり、まともな言葉がそれ以上口から発する事はなかった。

 冷静にこれぐらいなら急げば助かるんじゃないかと思った時には腹部から包丁は抜かれ、今度は胸部を刺されていた。

 頑張って口から言葉を漏らす事も出来なかったが、血だけは簡単に吐き出すことが出来た。

 あぁ肺がやられたんだなと感じた頃にはもう一刺し、二刺しと身体に穴が開けられていた。

 

 もう駄目だろと意識を手放す直前に見た走馬灯ってのが今までにあった川越優の人生だ。

 走馬灯のおかげと言うべきか傍から見る事ができたその人生はもう少し上手に生きろよという感想だったが、どうせ俺には無理だろうという感想もセットであった。


 両手両足、指先から少しずつ消えかけていった感覚が一瞬のうちに舞い戻っていた。

 何が起こったかと目を開けるとそこは1Kの一人暮らしのアパートの玄関ではなく、日本では考えられないような豪華な調度品に包まれた大きな広間であった。


 目の前には緩やかな階段があり、その上の小さな広場には冠をかぶった男が大きな椅子に座ってあった。

 この状況に理解が追い付いていない俺を含めた数人に簡単な説明を行った後その人物はこう言った。



「召喚されし勇者たちよ。平和の為に、この世界を救って下され」



その言葉に柄にもなく心臓は激しく高鳴り、手に汗握り、感情の高ぶりを抑える事は出来なかった。

今度こそは、この世界でならと。

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