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旅猫 マタタビ

作者: 吉成 けい

 小さな山のふもとに猫たちの暮らす村があります。そこにマタタビという子猫がいました。マタタビは大人になるために旅にでなければなりません。お母さんはとても心配。でも、新品の真っ赤な首輪に銀色の鈴を身に着け、意気揚々とマタタビは出発!


 村をでるのは初めてなマタタビ。みたことのない風景に大興奮。野原を越え川に沿って歩いているとやがて小さな港町にたどり着きました。


 港ではクマたちがさん橋で釣りをしていました。そして釣り上げた魚をひときわ大きな家まで運んでいました。好奇心旺盛のマタタビはクマたち休憩している最中大きな家まで行きました。窓から覗き込むとそこはなんと大きな魚の倉庫でした。

「これだけあるんだから一匹もらってもいいかにゃ。」

 マタタビはこっそり中に入ろうとしたところ背後から大きな怒鳴り声が聞こえました。

「こらぁぁぁ!」

 大きな声にびっくりしたマタタビは全速力で逃げました。走って走って走って走って、やがて町のはずれまで来てしまいました。あたりもだんだん暗くなってきています。

「どこか寝れるところはないかにゃ」

 あたりを見渡すと一軒だけ家がありました。それ以外には家もないのでマタタビは急いでその家まで行き戸をたたきました。

「すみません、旅をしているマタタビといいます。今夜泊めてもらえませんかにゃ」

 家の中から大きな足音が聞こえてしばらくすると戸が開きました。

「おいらは大吉。何もしてあげられないが泊まっていくのは大歓迎さ」

 マタタビは大吉に町のことを聞きました。

「ここはとても働きもののクマの町さ。でも、おいらは港にはいけないんだ。だから今日マタタビが来てくれてうれしいよ」

「どうして大吉さんは港にはいかないのにゃ?」

 大吉はとても悲しそうな顔をしてうつむいてしまいました。実は大吉は足をけがして数日仕事を休んでしまったことがあったのです。それ以降怠け者だと仲間外れにされてしまい、港での仕事にはいかなくなりました。今は家の周りの木の実や野イチゴを食べて生活しています。



 泊めてもらった恩返しにマタタビは港で仕事をして魚を大吉に届ける決心をしました。翌日、朝早く起きたマタタビは走って港に戻り昨日怒られたクマを探したのです。

「昨日はごめんにゃさい。一生懸命働きますので、魚を分けてもらえませんかにゃ」

「素直に謝りに来るとは気に入った。みんなが釣り上げた魚を倉庫まで運ぶのを手伝いな」

「にゃりがとう!」

 一日魚を運ぶのを手伝い、そのお礼として魚を四匹もらって帰りました。

「大吉さん、これは昨日泊めてもらったお礼にゃ」

 こんなにやさしくされたのは何年ぶりだと大吉は大人なのに泣いてしまいました。もっと大吉を喜ばせたい。そう思ったマタタビは、毎日クマたちに交じって港で一所懸命働きました。



 ある日マタタビがどこに魚を持って行ってるのか気になった数匹クマたちはマタタビの後をつけました。するとなんと怠け者の大吉の家に!マタタビはきっとだまされているんだ!助けないと!クマたちは港に仲間を呼びに行きました。大吉とマタタビが魚を食べているとクマたちが怒鳴り込んできました。


「こんな若い猫をだまして働かずに魚を食べていたな大吉!」

「働かざるもの食うべからず!」

「怠け者の大吉、町をでていけ!」


「さぁ、マタタビはここにいてはならない。わしと一緒にくるのじゃ」

 一匹の年寄りクマそういいマタタビを連れ出そうとしました。

「違うんだにゃ!大吉さんは悪くにゃい!」

 いくら叫んでもクマたちは言うことを聞いてくれません。最後に見えた大吉さんの顔はとても悲しそうで絶望に満ちていました。少し離れたところで、年寄りクマは言いました。

「大吉はな、旅人が家まで食べ物をもってくるよう上手に騙すんじゃ。そういうことをするクマなんじゃ。マタタビには悪いことをしたのぉ。もっと早く気が付いていればよったんじゃが」

「そうだったのにゃ……」

 マタタビは言葉ではうまくいえないけど、なんだか胸のあたりがぎゅっと締め付けられているようでとてもつらい気持ちになりました。

「さぁマタタビよ、今夜はわしの家に泊まっていきなさい」

 年寄りのクマに連れられてマタタビは港の方に歩いて行きました。


 泊めてもらったお礼に働こうと翌朝マタタビは港に行きましたが、何故か体に力が入りません。クマたちは今日は働かなくていいとマタタビに言い少し離れたところから作業を見守ることにしました。


 マタタビは考えました。ただ騙して楽したいのならあんなに二人で楽しい時間を過ごせるはずない。きっと何かの間違いだ!マタタビは大吉の家に向かい走りました。今までで一番はやく走りました。大吉の家につくと、何か様子が変でした。戸は開けっ放しで、明かりもついていません。

「大吉さーん、いるかにゃ?」

 声をかけましたが返事はありません。そっと中をのぞいてみるとそこには大吉さんの姿はありませんでした。代わりにテーブルの上に大きなかごと手紙がありました。


 マタタビへ

 みんなが言うとおりおいらは悪い熊だ。木の実しか食べてないと言えば港から魚を貰ってくると思った。本当にダメなクマだ。でも、君と毎日過ごしているうちに魚なんかどうでもよくなった。君といる時間は本当に楽しくて幸せだった。今更何を言っても許してもらえないと思うが、これはほんのお詫びの気持ちだ。

 おいらはこの町を出ていく、もう誰にも迷惑をかけないために。

 大吉


 マタタビは悲しくなり泣いてしまいました。それはそれは大きな声で泣きました。あまりにも大きな声だったので、港のクマたちが聞きつけみんな大吉の家に集まりました。

「大吉さんがいなくなったにゃ!」

 そう叫びながら泣きました。そしてやがて泣き疲れたのかマタタビは眠ってしまいました。


 目が覚めるとマタタビは大吉のベッドの中でした。年寄りクマはマタタビが目を覚ましたことに気が付くと語りはじめました。

「マタタビをみていると小熊のことの大吉を思い出すようじゃ」

 そう、年寄りクマは大吉のお父さんでした。

「心優しくて元気すぎるぐらいだったんじゃが、ある日港でけがをしてしまってな。大吉は働きに行くといったのじゃが、治るまでは行くなと

 わしが止めたんじゃ。数日後働きにいった大吉は怠け者だと他のクマたちにいじめられたようで、今でも悪いことをしたとわしも反省しとるんじゃ。それがきっかけで大吉は家をでてここで一人暮らしだした。責めるなら大吉ではなくそうさせてしまったわしを責めてくれ」

 年寄りクマはどこか遠くを見つめるかのように語ってくれました。

「別に怒ってないにゃ。だって毎日すごく楽しかったからにゃ!」

 マタタビは笑顔でいいました。

「ふぉっふぉっふぉ、マタタビはいい猫だな。よし、少し大吉の小熊の頃の話でもするか!」

 そういい年寄りクマは大吉についてたくさん教えてくれました。悲しい気持ちはどこかに消えてしまいとても楽しい気分になりました。

「マタタビよ、今夜はここに泊まりなさい。そして明日の朝わしの家に来なさい」

「わかったにゃ!」

 おやすみと言い残し年寄りクマは家を後にしました。静かになると大吉のことを思い出すマタタビでありましたがもうさみしい気持ちはありませんでした。


 目が覚めると、大吉の残してくれたかごをもって年寄りクマの家に行きました。年寄りクマは風呂敷と魚の干物をくれました。

「旅の途中でお腹がすいたら食べるんじゃぞ」

 マタタビは大吉にもらったかごを年寄りクマに渡しました。

「中身は木の実と野イチゴだにゃ。大吉さんが毎日食べてた美味しいからみんなにも食べてほしいにゃ」

「ありがとう、マタタビ。達者でな。」

「みなさん、さようにゃら!」



 いつか大吉にあったらまた笑顔で話をしよう。そう心に決め、マタタビは旅路を急ぎました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが気になります。 [一言] 続編、期待してます。
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