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悪ぶりたいのも、君たちの世代特有の格好付けなのだろう

 チームのリーダーになって欲しい。そう頼むために、わたしは放課後シュウイチのクラスを訪れた。


 彼にリーダーを託そうと思ったのは、カナミズチームの担当教師、森本の勧めがあったからだ。雲払いをした翌日。つまりチームメンバーを集める期限だったその日、わたしは全員の名前を書いた用紙を持って彼のところに行った。


 森本の教員室は相変わらず締め切っていて、空気が淀んでいるように感じた。椅子に座っている彼に突き出すように紙を渡すと、意外だとでも言いたげに目を見開いた。


「本当に全員集めたのか。ちょっと予想外だよ」

「先生が集めろと言ったんじゃありませんか」


 わたしの言葉に、森本は最初に呼び出されたときと同じサディスティックな笑みを浮かべた。あのときは八人揃えるのが当然の義務みたいに言っていたのに、ちゃんとこなすだけで驚かれるなんて。


「ただ、わたしはリーダーにはなりません。本来なら最初のミーティングの前に決まってるべきだと思いますけど、そのときに話し合って別の人に頼みます」

「リーダーになれば、輝かしい未来が待っているかもしれないのになあ」

「それでもやっぱりわたしはしません。向いていないので」


 森本は髪を掻き上げ、全員の名前が書いてある紙をじっと見つめた。


「この中だったら、小立野シュウイチかなあ……」

「彼は不良ですよ」


 即座に言ったわたしに森本は苦笑する。


「いや、彼は見どころのある男さ。中学のときは生徒会長をやっていたとも聞く。ああやって悪ぶりたいのも、君たちの世代特有の格好付けなのだろう」


 あのシュウイチが生徒会長なんて。そんな学校大丈夫なんだろうか。


 ともあれ、そのやり取りでわたしはシュウイチに頼んでみようと決めた。シキトはやってもいいと言ってくれたけど、彼もわたしと同じでやっぱりリーダー向きじゃないと思う。人前で話をしたり、後輩を気遣って優しい言葉を掛けるようなタイプじゃない。


 それを言うと、シュウイチもそんなタイプには見えないけれど、森本の言葉を聞いて賭けてみたくなった。生徒会長という単語には不思議な魔力でも備わっているんだろうか。過去にそれをやっていたというだけで期待は嫌でも高まる。学校中をまとめていたんだから、八人くらいは余裕だろうと考えてしまう。


 3Bの教室に彼の姿はなかった。いつもの不良ゾーン(廊下で彼らが溜まっている場所のことだ)にも人影はない。もしかするとテスト勉強のためにさっさと自室に戻ったのかもしれない。そんな真面目な一面に、いよいよ森本の言葉が信憑性を帯びてくる(わたしの勝手な想像なんだけど)。


 原則として女子は男子寮に入っちゃいけないし、逆もまたしかりなのだけれど、わたしは男子寮のシュウイチの部屋に向かうことにした。校則の中には、絶対に破ってはならないものと、黙認されているものがあって、異性の寮への侵入は後者だった。学校は生徒を傘師としてしか見ておらず、傘師として機能すればその他のことはどうでもいいと思っている。


 校則には、傘師としての機能を守るためのものと、建前としてあるものが混在していて、痛い目にあわないためにはそれを見極めなければならない。


 三年のフロアに辿り着くと、部屋の前にはめ込まれた小さなプレートを頼りにシュウイチの部屋を探す。運よく五部屋目で探し当てると、ドアを迷わずノック。もしいなければ明日のミーティングの中で頼むしかない。


 けれど、シュウイチはいた。


 少しの間の後、ドアが薄く開いてその隙間から彼のいつもの眠そうな目が現れた。わたしを見るとドアの隙間をやや広くした。それこそ心持ち程度に。


「こんなところで何してるの、ミナミ」

「ちょっとシュウイチに頼みたいことがあって、ここまで来たんだ」

「チームのこと?」

「そう、リーダーになって」

「いいよ」


 あまりのあっさりした返事に拍子抜けした。彼は話を早く切り上げたい様子だった。そして部屋の中を見られたくなさそうだった。もっとオープンな人だと思っていたのに。でもどんな事情や傾向があれ、それを侵すことはしないつもりだ。


「じゃあ、よろしくね」


 そう言って立ち去ろうとしたとき、「ちょっと待って」と呼び止められる。振り返ると一旦部屋の中に引っ込んだらしい彼によってぱたんとドアが閉じられた。僅かな時間でも部屋の中を覗かれるのが嫌らしい。校舎では感じたことのない、彼の不審さがおかしい。


 再びドアが開いたとき、シュウイチの手には茶色の紙袋が握られていた。


「これ、シキトに渡しといて」

「何これ?」

「参考書だよ。この前借りた。」


 確かに中身は本のようだった。シュウイチとシキトが参考書を貸し借りする仲だとは知らなかったけれど、彼らが友情を育んでいけないことはない。わたしは頷いた。どうせ男子寮まで来たのだからついでに寄って渡せばいい。


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