どうしていま、こんなにしみじみと悲しいのか
その本っていまも持ってるの?
その本には「あの日」のことも書いてあるの?
なんて訊きたいことはたくさんあったけれど、その問いに多くを込めた。
なのに、シキトは返答を放棄しておれに逆質問をする。
「傘師に輝かしい未来ってあると思う?」
照明のパネルに手を添えたままのおれをじっと見ながら、ベッドに座り込んだシキトが尋ねる。何を尋ねられているのか呑みこめないまま、おれは首を横に振った。質問にはあらかじめそれを発する者によって答えが決められているものがある。いまのはまさにそれだった。
「おれ、父親が傘師で、母親がそうじゃなかった。知ってるだろ?」
「何回も聞いたよ」
「おれが物心ついたときから父親はいなくて、母親と二人で暮らしてた。その母親は父親を憎んでて、傘師の悪口をいつも言ってた。だから、傘師がどんなものかってことは最初から知ってた」
「それも聞いたことあるよ」
「あの本の中にはおれが知ってることの中で、一番知りたくなかったことが書いてある。だから見せたくない。ミナミにもお前にも」
「そうなんだ……。おれたちに未来、ないの?」
シキトはただ苦笑することによって、言葉を使わず答えを返した。自分の未来に思いを巡らせるより先に、その諦めたような顔を見て悲しくなってくる。いつか、日常が悲しみに覆われてしまう日が来る。そんな不吉さを孕んだ表情だった。
いまが一番いいときなのかな。
自分のことを分かってくれる友達がそばにいる日常。
そして、何気ないことで一緒に笑える日常。
それは絶対的なものではないし、永遠にも続かない。
そんなこと当たり前なのに、どうしていま、こんなにしみじみと悲しいのか。
「シキト」
「なに」
「もしいつかおれが死んだら、おれが書いてる日記を読書クラブに納めてくれないかな」
いままで考えてもいなかったことを唐突に言ってしまった。悲しみを悟られないために、言葉を繋ぎたかっただけかもしれない。
「最近、なんでも書いててさ」
「知ってる。夜いつも机に向かってるな」
「無事卒業できたら持って行くから、人目に触れることはないと思う。でももしそうならなかったら、この学校におれの書いたものがずっとあって、ときどき誰かが読んでくれるのがいい。シキトが一番先に読んでくれていいよ」
「分かった」
シキトは静かに言った。それ以上何も言わなかったのはきっと、おれの中で溢れた悲しみが伝播したからだと思う。
これを書きながら、おれはずっと考えている。
この日記をいつか誰かが読む日が来るのだろうか、と。
いつかこれを読んだ誰かが、三口カズキという人間や、出羽シキト、涌波ミナミ、カナミズチーム、その他のおれを取り巻くものに想いを馳せる日が来るのだろうか。
きっとそのとき、おれはもうこの世にいない。
これを読んでる人、おれはもう死んだんですよ。




