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可笑しなお菓子づくり







どちらかというと勉強が得意ではないので、勉強は苦手だ。

体育などの技術系科目の方が得意なのだが、同じ技術科目でも家庭科は別だ。

小学校の頃課題として出されたクッションは慎兄に縫ってもらったし、中学校の頃調理実習では全て悠太が作ってくれた。とにかく針やら包丁やらとは相性が悪いのだ。

「という事でよろしくお願いします、悠太さま!」

「という事でってなんだよ」

ほら私が包丁もったらスプラッタになっちゃうからね?

「大丈夫ですわ、わたくしがお手伝いさせていただきますもの!」

「やめておけ宇佐美、こいつは並大抵の料理音痴じゃないぞ」

「っ、悔しいがその通りで反論出来ない!」

完全敗北である。

いや、戦略的撤退です!隊長!

「まあ……でしたら、わたくしの作ったマフィン、召し上がって下さいね」

うふふ……と何故か幸せそうに微笑むうさぎちゃん。何故だ。

理由は怖いから聞かないけど。










料理実習では何を作るかクラスごとで決められるため、私たちのクラスはマフィンに決まった。

実習班は4人1組なのだが人数が奇数のため、私たちはの班は悠太とうさぎちゃん、私の3人だ。

「兎に角お前は何もしなくていい。立ってるだけでいいから手を出すな」

「みほさんのエプロン姿を眺められるだけで眼福、という意味ですわね」

たんだそれは。

うっとりと微笑むうさぎちゃんと何故か赤くなる悠太さん。何故だ。

「と、兎に角!始めるぞ!」










普段から料理をしているだけあって、慣れている悠太の手際は主婦も裸足で逃げだすほどである。

うさぎちゃんの的確なアシストもあり、作業はとても効率よく進み、後は焼くだけになった。

あれ、私本当に立ってるだけじゃん。

洗い物もないし、使用済みの調理器具もきれいに片付けられている。

きっと2人とも良いお嫁さんになるね!

「てか私にも何かさせてよ!」

これでは慎兄に「私が作ったの、食べて」とは言えない。せめて何か一枚かまなくては!

「れんには無理だ諦めろ。超不器用のくせに」

「今酷いことさらっと言ったな!?そして名前を呼ぶな!!」

「まあまあみほさん、落ち着いて下さい。水嶋さん、私からもお願いしますわ」

うさぎちゃんまじ天使!

「……わかった、ちょっとだけだぞ」

渋々といった様子ではあったが、悠太から紙のカップを2つ手渡される。

「バター塗ってあるから、生地を均等に流し入れて。あんまり多く入れるなよ」

「了解であります、教官どの!」

私は悠太の指示通りにカップに生地を入れる。

入れすぎないってどれくらいだろう。半分くらい?焼き上がりは膨らむ事を考えると、カップの縁まで入れるのは危険だと言う事はわかる。

でも入れすぎないってどれ位!?

「入れすぎだ、れん!」

「はうわっ」

入れすぎ!?

悠太の声にはっとして我にかえるが刻すでに遅し。生地はカップから溢れる寸前だった。

「大丈夫ですわ。初めては失敗しても、もう一度チャンスはありますもの!」

うさぎちゃんの励ましがありがたいやら切ないやら。

どんだけ不器用なんだ、私。泣きたくなる。

「こ、今度こそ!」

気合いを入れて再度挑戦する。

慎重に生地を流し入れる。余計なことは考えず、ただ生地を入れすぎないことだけを考えて───って、あれ?

入れすぎないってどのくらい!?聞いておけばよかった───!!









結局生地は悠太の声かけのタイミングで入れすぎる事を阻止出来た。

本格的に私は役立たずで落ち込む。

「ほら、好きなの使え」

悠太が用意してくれたのはナッツやドライフルーツ。

「使うって?」

「飾り付けですわ。桐谷さんに差し上げるのでしょう?」

なるほど、これなら不器用な私でも出来るというわけだ。

「水嶋さんのアイデアですわ」

耳元でこっそりうさぎちゃんが教えてくれた。

ナイショですわよと唇に指をあてる。視線で合図をし、何気ない風に悠太に話しかける。

「ありがと悠太。もらうね」

「おう」

そっぽを向いたままの悠太の表情は分からない。だが悠太が優しく微笑んでいる気がしたのはきっと気のせいではないだろう。







結果から言うと私のマフィンは失敗作だった。

生地は悠太が作って私は型に流し入れただけなのにだ。

他のマフィンがふっくら美味しそうに膨らむなか、反抗期なのか膨らまないわ不細工だわでお世辞にも上手くできたとは言い難い出来になった。

生地を入れすぎた方は明らかに生っぽいし。

「初めてにしては上出来ですわ」

「でも慎兄にあげられないよ……」

私のマフィンのせいで体調が崩れてしまうのではないかと思うと気が気でない。

「腹こわす程度だろ、気にすんなよ」

いや気にするでしょ!?

仮にもつい先日まで入院してたのだ。

「慎司はれんが作ったものなら毒が入ってようが食べるだろ」

「毒ってなによ、それと名前呼ぶなっ」

「もう一個は俺が食う」

私が制止する前に2つの内の生っぽい方を悠太が攫っていく。

「ちょ、やめた方がいいよ。……私が言うのも変だけど」

後で体調が悪くなって責任を求められても困る。

「心配しなくても大丈夫ですわよ。水嶋さんですもの」

いえ、何の根拠があるのかさっぱり分かりませんけれども。まあうさぎちゃんの言葉ならば間違いはないだろう。

「じゃあ今度また作ったら食べてくれる?」

「いらねぇ」

なんですとぉ!?










不細工ながらも綺麗にラッピングされたマフィンは無事に慎兄の手に渡った。

「恋が食べさせてくれたらもっと美味しくなるんじゃないかな」

ほとんど悠太が作ったようなものだけど。

もちろん後ろめたくないわけではない。

「慎兄、今度リベンジするから!また食べてくれる?」

「もちろん」

優しく微笑む慎兄にほっと胸を撫で下ろす。

やっぱり今度は1から自分で作ろう。

慎兄の好きなシフォンケーキを作れるように努力しよう。


───簡単に作れるレシピ悠太に教わろうかなあ。







 






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