第二話
あのすてられたひから、ながいときがながれて。
あたしはやまで、いきてきた。
じゃくにく、きょうしょく。
めすおおかみに、じぶんたちがここのちょうてんであること、
ちを、くらうもの、
おそれられるもの、 だとおしえられた。
あたたかいちは、いのちのあじ。
このきばのしたで、いのちがうしなわれるのを、しぜんなことだとおもってた。
わたしは小狼。
せいちょうするごとに、おおきくなるむねも、
いっこうに、めすおおかみのようにけにおおわれない、うすいひふも、
はえないきばも、
きづかないふりをして、ひっしにひていしてた。
わたしは狼だ。
めすおおかみのような、からだにならなくても。
人とよばれる、よわいいきものと、おなじすがたをしてようとも。
狼なのだ。
それいがいのあたしを、しらない。
しりたくない。
じぶんのなかで、モヤモヤがおおきくなっていた、そのころ。
あたしはつかまった。
さむい、さむい、ゆきのひ。
ゆきのうえに、うさぎがたおれているのを、みつけて。
たべものがなくなる、ゆきのきせつ。
すっかりからだがよわった、めすおおかみに、ひさしぶりに、にくをたべさせてあげたくて。
あたしはとびついた。
ガシャンッ――――!!!!!
きいたこともないおとがして、ほそく、くろいものに、とじこめられた。
うしろをむいても、でることはかなわず、
くいやぶろうとも、かたく、つめたいそれは、うごかない。
『オオオオォォ―――』
めすおおかみよ、めすおおかみよ。
たすけてくれ、とよびかけたのか。
しかし、あのからだでは、それもかなわないだろう。
あたまのかたすみで、そうおもいながらも、さけびつづけた。
ザッザッザッ。
ピクリ、となにものかが、ゆきをふみつけるおとをきき、さけぶのをやめた。
そのかわりにと、ぞうおのこおもるめで、そいつらをにらめつける。
人だ、人だ。
とおくからみたことはあるが、こんなにちかく、しかもこんなにおおくを、みたことはない。
「へへへっ、捕まえたぜぇ、これが噂の狼人間だ」
「あぁあぁ、そうだ。この寒い中、待ってたかいあったなぁ」
「早速売り飛ばそう。こりゃ物珍しいから、高値で売れるぞぉ」
「なんてったって、狼に育てられてた狼人間ときた。しかし、人の言葉が分かんのか?」
「お偉いお方は頭の中身なんでどうでもイイのさ。ただ服従させるためにもある程度はこちらの言葉を理解させにゃならんな」
「それよりも今は下山だ。ここにはもう長居は無用だろ」
人がなにをいっているのかは、わからない。
しかし、じぶんがどこかへ、つれていかれるのをたしかにかんじた。
『ガルルルッ!!!』
はなせ、はなせと、たいあたりをするが、やはりにげられず、
そうしているうちに、チクッといたみがはしって、めのまえがくらくなる。
めすおおかみよ、めすおおかみよ。
としおいた、あのおおきなからだを、おもいだす。
ふしぎとサヨナラだとさとった。
あのからだでは、そうながくもたない。
ゆきのきせつのまえから、わかっていたことだ。
めをそむけていた、だけで。
ありがとうと、ほおずりすることもできなかった。
あたしのめすおおかみ。
サヨウナラ。