第4話
運ばれていく機体。それを見送りながらも、ゼフィルスの頭の中をギブリの言葉が反芻する。
「ギブリ・ロフトゲートだったの」
ウィンドがゼフィルスの傍らでつぶやく。
「知ってるの……?」
「シルフの葬儀のとき、最後まであいつの傍にいた男じゃよ。副隊長とか言っておったかの? 戦争も終わった今じゃ憲兵か」
「…………」
「ま、いい機会じゃよ。あいつらの話じゃ、このまま機体を素直に引き渡せば、罪には問わんと言っておるしの……」
視線を前へ向けたままのゼフィルスを横目に言葉を続ける。
「諦めるんじゃな。昔の夢など。また新しい何かが見つかる。そうやって成長していくものじゃよ」
「……違う」
ゼフィルスは小さく頭を振った。
「そうじゃない。夢は……叶えていくもんなんだ。諦めるものじゃない」
「……ゼフィー?」
「ごめん、おじいちゃん。私行くね」
「ふん……」
腕組みをするウィンドを尻目にゼフィルスは踵を返した。
王城までの道のりは表通りを使えば一本道だが、昔から今までの間に作られた小道が大量にあった。
普段から使っている工具箱を小脇に抱え、ゼフィルスは小道をひた走る。
何が自分にできるのか、王城まで行ってどうするのか……そんなことをまともに考える暇もなく足は走っていた。何もできないなどと考えるのは嫌だったし、何よりも機体を取り戻したかった。
「ぜぇっ……」
昔はよく遊んだ小道だ。迷うことなんてなかった。するすると道を抜けていくと戦前に作られた王城の坑道へと繋がっている。
一度王城の倉庫へは補修修理のために行ったことがあった。おそらくそこに今回持って行かれた飛行機は置かれることだろう。ただひたすらにそこを目指した。
やはり飛行機自体は倉庫にあった。ただ普段は使用されない場所のため、見張りの兵すらいない。
「お待たせ」
シルフィードのタイヤは鎖で壁に繋がれていた。よほどのことがない限り動かないようにしておくためだろう。ゼフィルスは工具箱からチェーンカッターを取り出すと、鎖を切る。手早く機体チェックをしたが、どこもいじられたような箇所はなかった。
「……でも、どうすれば」
ここまで来たのはいい。問題はその先をどうするかだった。わざわざ奪われた物を取り返しに来てしまった。完全に反逆罪といったところだろう。もう後戻りはできない。
「前科一犯ってほど軽いことじゃないことは確かね」
「まったくだ。どうしてお前たちはそう軽率な真似をするのか、ワシには理解できんな」
「え?」振り向くとそこにはウィンドがいた。三輪のバイクに跨っている。このサイズならば坑道も通れるのだろう。そしてその背後には――
「それは?」
「ただのバナナじゃよ」
湾曲した二本の……言葉通りバナナのような形をした部品だった。
「それは……飛行艇用の……」
「そう。簡単に言えば浮輪じゃ。昔、ウィンドが使っていた」
「お父さんが……? そんな。飛行機は完成していなかったんじゃ……」
「あれは嘘じゃよ。正確にはワシが見る飛行機はそれが初めてじゃない。たぶんウィンドも同じ夢を、ゼフィーに見ていて欲しかったんじゃろな。まったく押しつけがましいというか……」
どこか面倒くさそうに頭をポリポリとかくと、ウィンドはバイクを機体のすぐ前まで動かした。
「さっさと取り付けてしまうぞ」
ゼフィルスはウィンドの意図を読みかねたが、彼の指示に従う他なかった。




