第九通 喫茶店のジャンボパフェ
安奈と僕は、近くの喫茶店に来ていた。
駅の入り口で立ち話をしている訳にもいかないので、喫茶店に移動したのだった。
しかし、喫茶店でも安奈は男性陣の視線を集めていた。
それだけ、魅力的なのだろう。僕なんかと一緒にいる人ではない。
向かい合わせに座ったが、僕は彼女の顔を直視する事は出来なかった。
そこに、店員さんが注文を取りにやってきた。
「ご注文は?」
「私はチョコパフェで、マサは何にする?」
安奈はそう言って笑顔で僕の方を見た。その笑顔を見た瞬間に、僕の頭は混乱し、そのあと何と言ったか分からないが、届いたのはジャンボパフェだった。
安奈のチョコパフェと比べると、十倍近くの大きさで、座っていると安奈の顔が見えない。
「だ…大丈夫?こんなに食べられるの?」
「だ…大丈夫だよ……」
心配そうな瞳で僕を見る安奈。
そんな安奈を安心させようと、一生懸命ジャンボパフェを口に運んだ。
しかし、ジャンボパフェはかなり手強かった。
何度スプーンを往復させても、減る様子は全く無い。
だが、僕は諦めず食べ続け、ついにジャンボパフェを攻略した。
食べ終わって、暫くは夏だと言うのに寒くて、凍えそうだった。
よく食べきる事が出来たと、自分でも不思議に思う。
僕と安奈は暫く喫茶店で話をしていた。
メールとは違い、直接声を聞きながら話すと何だが温かみを感じる。
ふと、外を見ると何時の間にか蒼かった空が、オレンジ色に輝きを放っている。
僕は喫茶店の時計を見た。すでに、六時を回っていた。
「そ…そろそろ。帰ろうか?」
僕のその言葉に、安奈は初めて空がオレンジ色に染まっている事に気がつく。
「もうこんな時間……。楽しい時間って…アッと言う間だね」
安奈はそう言って僕に微笑んだ。微笑んだ顔を見ると、僕も嬉しかった。
喫茶店を出ると、安奈を駅前まで送った。入り口で僕と安奈は向い合い、
「今日は楽しかった。家に着いたら、またメールするね」
「うん。待ってるよ……」
恥ずかしがりながらも、僕はそう言った。
「それじゃあ。またね」
彼女はそう言って手を振って駅に入っていく。僕は暫くその後姿に手を振った。
安奈の姿が見えなくなり、手を振るのを止めてその場に立ち尽くしていた。
安奈に言われた事がとても嬉しかったからだ。
それを思い出しながら、何度も笑顔をこぼしながら、僕は家に帰った。