第八通 待ち合わせ
結局、休みの日に会う約束をしてしまった。
待ち合わせ場所の駅の入り口に立って、安奈を待っていた。
人通りは多く、入り口の前には大きな噴水があり、その右側には時計台が立っていて、時を刻んでいく。
もうすぐ、待ち合わせの時間だ。
噴水の池の周りの淵には、沢山の人が座り込んでいる。
待ち合わせをしている人も、中にはいるのだろう。
僕はゆっくりと、深呼吸を三回して心を静める。
いつかは、会わなきゃ行けないんだろうと思っていたが……。まさか、こんなに早いうちとは思っても見なかった。
緊張して足が震えている。そして、もう一度深呼吸を三回する。
と、その時、携帯がポケットの中で激しく震えた。もちろん、安奈からのメールだ。
『今、どこにいる?私、もう駅の入り口にいるんだけど……。
ついでに、私は水色の洋服を着てるよ。それから、黒のショートパンツかな』
(水色の服の……。黒のショートパンツ……)
よーく、探したが見つかる気配は無い。僕が探すより、安奈が僕を探す方が早いだろう。
そう思いメールを打った。
『僕が探すより、安奈が探した方が良いかも……。
黒い服の上に白い薄手の上着を着てて、黒い長ズボン……。』
そのメールを送った直後、背後から声がした。その声は、可愛らしく明るい声。
僕はそんな風に感じた。
「あっ!いた!」
振り返った僕の前には、確かに水色の洋服で黒のショートパンツの少女がいる。
黒髪は肩につく程度の長さで、色白の肌、とても可愛らしく微笑み僕の方を見ている。
その瞬間、僕は気が動転して頭の中が真っ白になり、何を言っていいのか分からなくなった。
と、言うより、彼女は僕の想像していた以上に可愛い。
「マサだよね?」
黙っている僕に、安奈の方が恐る恐る声を掛けてきた。
気を取り戻し、僕はとっさに声を出す。
「エッ、あっ、はい」
が、その声は裏返る。緊張し過ぎたのだろう。僕は恥ずかしくなって、視線を逸らして俯いた。
こんな可愛い娘とメールをしていたと思うと、なかなか言葉がでない。
彼女の身長は僕とほぼ同じ(実際は彼女の方が少し高い)で、腰を低くして僕の顔を覗きこんだ。
「どうしたの?もしかして、会わなきゃよかったとか思ってる?」
「えっ!そんな事ないよ!」
とっさに出た言葉がこれだ。周りの目が、こっちに集まっている気がする。
きっと、僕の気のせいなのかも知れないが、この時はそう感じていた。