第六十二通 突然の訪問者
三学期が終わり春休みに突入した。取り合えず、する事も無く家でゴロゴロとしていた。しかし、休みと言うのは意外と暇だ。漫画もすべて読み終えたし、何か面白い事が起きないだろうか。まぁ、普段の生活じゃあ、そんなに面白い事なんて滅多におきないだろう。
「う〜っ。暇だー。最近、安奈からのメールも来ないし……」
そんな事をぼやきながらベッドに、横になっていると家のチャイムが鳴る。空耳かと思い無視していると、もう一度チャイムが鳴る。流石に、空耳ではないと気付き、ベッドから素早く立ち上がり、玄関へと向う。
「誰だろう。健介は合宿だし、和彦は彼女の所行くって言ってたし……」
独り言を口走りながら、僕は玄関のドアを開く。パッと広がる外の風景の真ん中に、可愛く微笑みたたずむ安奈。驚きのあまり声を出すのをすっかり忘れ、呆然と立ち尽くしていると痺れを切らせたのか、安奈が口を開く。
「大丈夫? もしかして、風邪で寝込んでたとか?」
安奈の声が耳に届き、僕は我に返る。焦り声を裏返しながら答えた。
「だ 大丈夫。ちょっと、びっくりしただけだから」
「ヘヘヘッ。ドッキリは成功って事だね」
嬉しそうに微笑む安奈。僕も暫く間を開けて笑い出す。何が可笑しいか分からないけど、ただ何となく笑いが込上げて来る。暫し笑い続けた後に、僕は安奈を家の中に招いた。
取り合えずリビングルームにあるソファーに、安奈を座らせ僕はキッチンに向った。
「何か飲む? って、言っても麦茶とコーヒーしかないけど」
「そうだな〜。それじゃあ、コーヒーでいいよ」
キッチンに立つ僕の顔を見ながら安奈はそう言う。僕はブラックコーヒーをコップに注ぎ、テーブルに持っていく。
「砂糖とミルクは必要かな?」
テーブルにコーヒーカップを置きながら僕は訊く。安奈は少し迷う様な仕草を見せるが、笑顔で答えた。
「うん。必要かも。苦いの苦手だから」
笑みを見せる安奈に、僕も笑みを返して砂糖とミルクを取りにキッチンに戻る。シュガーと書かれた袋から、細長い棒状の袋に詰められた砂糖を二つ取り、冷蔵庫から取り出したミルクと一緒に、テーブルに運んだ。
「砂糖は一つで良かった?」
「うん。多分、大丈夫だよ」
砂糖とミルクを手渡す。コーヒーに砂糖とミルクが加えられ、ブラックだった色が変わっていく。ある程度スプーンでかき混ぜ、安奈はそれを口に運ぶ。暫し間が空き、安奈が口を開く。
「まだちょっと苦かった……」
そんな安奈を見て、僕は笑っていた。