第六十通 チョコレート
色々とあったが、ようやく僕も家に帰れそうだ。公園を出てすぐに、僕の携帯がポケットで震える。僕はそれに気付き、ポケットから携帯を出して、開いて画面を見る。
そこには、メールのマークがついていた。多分、安奈からだと思いメールを開いたが、その予想は軽々と崩された。
『やったぞ! ついにチョコを貰ったぞ! 羨ましいだろ、欲しいだろ。この勝負俺の勝ちだな』
健介からのメールだった。って言うか、勝負をするなんて一言も言ってない。しかし、チョコがもらえただけで、あんなに喜ばなくてもと、思っているともう一度携帯が震えた。
今度こそ、安奈だと思い、すぐにメールを開く。だが、またしても期待は裏切られる。
『ウオ〜ッ……。だ、駄目だ。塩辛いチョコなんて、チョコじゃねぇ……』
またしても、健介からのメールだ。やっぱり、由梨絵は塩と砂糖を間違えたようだ。とり合えず、健介に返事を送る事に。
『大変だね(笑) まぁ、塩辛いチョコって言うのも、新鮮でいいんじゃない?』
『笑い事じゃねぇ〜』
そこで、健介とのメールは遮断された。と、言うより遮断した。話を聞けば長くなる気がしたから、聞かない事にしたのだ。
そんなこんなで、足元に気をつけながら帰路を歩く。暫くして、背後から聞き覚えのある声で呼び止められた。
「マ〜サ〜」
「ンッ?」
俯いていた僕は足を止め、振り返った。そこには、制服姿の安奈が立っていた。幻かと思い、目を擦りもう一度その姿を見る。しかし、幻ではなかった。
「何してるの?」
首を傾げながら安奈はそう言う。なぜ、安奈がここにいるのか分からず、ボーッとする僕の頭に安奈の鞄が飛ぶ。顔に鞄が当たり僕は我に返った。
「あ、安奈! 今日は学校じゃ?」
「今日は短縮だったの」
「そうなんだ……」
すんなりと安奈の言う事に納得する。まぁ、安奈が嘘をつくなんて思ってないから、すんなりと納得できたんだろう。暫し、安奈との会話を楽しみながら時を過ごす。
風が冷たく吹くが、安奈と話しているだけで、その事を忘れてしまう。気付いた時には、安奈を駅の前まで送っていた。
「随分、寒くなってきたし、風邪引かない様に気をつけてね」
「うん。安奈も風邪引かない様に」
笑いながら安奈にそう言うと、安奈も笑う。時が止まって欲しいと願うが、そんな事は無理に決まっている。時は着々と過ぎ、安奈との時間も後わずか。その時、僕の脳裏にふとした疑問が生まれた。
「そう言えば、安奈何しに来たの? 結局、用件聞いてなかったけど」
「用件? あっ、そうだった。これ渡しに来たの」
鞄に手を入れるとピンクの包み紙に包まれた、正方形の箱を取り出す。ピンクの包みには、赤いリボンが巻いてあった。それが、チョコである事は何となくわかった。
「バレンタインだし、チョコ渡そうと思ってね。これは、マサの分ね」
「これは?」
「うん。健介君と和彦君の分もあるんだ。義理チョコだけどね」
安奈はそう言うと、ピンクの包みの赤いリボンが巻いてある箱を僕に渡して、鞄から小さな赤と白のチェック柄の包み紙に包まれた箱を、二箱取り出して渡す。
「それじゃあ、私は帰るね。バイバイ」
「うん。またメールで」
可愛く微笑みながら安奈は僕に手を振り、僕もそれに微笑みながら手を振り返す。安奈の姿が見えなくなり、僕は家に帰ろうと足を進めた。安奈からチョコが貰え、その事を伝えようと健介にメールを送ったのだった。