第五十九通 和彦の彼女
結局、また学校に戻ってきてしまった。理由は、この女子高生のせいだ。
名前も知らないこの女子高生に、帰り道で絡まれてしまい、仕方なく学校に――。
「それじゃあ。僕はこれで……」
帰ろうとした僕は腕を掴まれ、結局帰して貰えなかった。彼女は人を探しているらしく、その人を探す手伝いをしろとの事だ。
渋々探すのを手伝うが、その人の名前も特徴も教えてくれないので、僕には探しようがなかった。
「いないな……。帰っちゃったのかな?」
僕に向って、彼女が疑問を投げかける。知るかと、言ってやりたいがそこは、堪えて笑顔で返答する。
「どうだろう。学校終って随分経つからね」
「そうだよな〜。もう少し早めに来てたら……」
そう言って、彼女は座り込んでいる僕の顔を睨み付ける。いかにもお前が、悪いんだぞと、言っているような目をしている。僕は何も言わずにただただ、笑い続けた。
そんな時、人だかりの中から和彦の声が聞こえた。
「オッ! ユキ!」
その声に反応し、僕は立ち上がり人だかりの中を見る。人だかりの中に微かに和彦の姿が見え、僕は返事を返そうとした時、その隣で女子高生が声を上げた。
「キャーッ! か〜ず〜ひ〜こ〜!」
「は、春奈!」
和彦はその声の方を向き、そう叫んだ。訳が分からず、僕はただその場に立ち尽くすしている。そう、彼女が探していたのは和彦だったのだ。
和彦は僕とその春奈と言う女子高生の側に駆け寄り、周りを警戒しながら小声で言う。
「ここじゃあ、目立つから場所を移そう」
「えーっ。どうしてよ」
「どうしてもだよ!」
「わかった」
少し甘える様な声で、春奈はそう言って嬉しそうに歩き出した。どういう関係なのか、全く分からず、とり合えず僕は和彦について行った。
静かな公園にやって来た。僕はとり合えず、和彦と春奈のやり取りとじっくり観察する事に。
「お前、何しに来たんだ!」
「うちの高校、今修学旅行中なんよ」
「そんな訳あるか! 大体、何で修学旅行でこんな所に来るんだよ!」
「今は自由行動の時間なん」
「だからってな……」
ため息を吐き呆れ返った様子の和彦。そして、会話のやり取りから、大体の事は理解した。きっと、あの春奈と言う娘が和彦の彼女なのだろう。修学旅行の自由行動で、彼氏に会いに来るなんて、何て凄い根性をしているんだ。
そんな風に思っていると、和彦が僕の方を見て口を開く。
「何か、迷惑かけたみたいだな。こいつが俺の彼女」
「迷惑なんてかけてない! どっちかって言うと、掛けられた方だ!」
「口は悪いけど、良い娘なんだよ」
和彦はそう言って笑う。本当に彼女の事が好きなんだなと、心からそう思った。暫く話をしたが、春奈がすぐに僕を追い払った。僕も2人の間を邪魔するつもりは無く、すぐにその場を立ち去った。