第五十四通 健介の彼女
安奈との恋は発展しないまま、1月はあっと言う間に過ぎ、もう2月に突入している。
健介も最近は野球部の練習が忙しく、授業中もよく寝ているため僕の所に来る事も少なくなった。言ってなかったが、一応健介は野球部の主将だ。そのせいで、色々と疲れているらしい。
それと、近々どこかと練習試合をするらしいが、それで気合が入っているとか居ないとか。まぁ、僕にはあんまり関係ない話だ。
「ふぁ〜っ」
学校が終わり、僕は欠伸をしながら帰りの準備をしている。教室には5、6人しか残っていないので、とても静かだ。
「さぁ、帰るか……」
身支度が済み、僕は独り言を呟いてゆっくりと席を立つ。そして、窓の外に目をやると、練習をする野球部の姿が目に入った。『カキーン』と、バットでボールを打つ音が窓を閉めていても聞こえてくる。
「健介、頑張ってるな。今年は甲子園いけるといいな」
一人笑みをこぼしながら、野球部の練習を見ていた。健介の夢は甲子園に行く事だと、中学の頃聞かされていて知っていたし、健介が野球の巧い事も知っている。だが、中学では環境が悪く(と言うより、顧問の先生が悪かった)いつも一回戦負けで、結局野球の強い高校には、いけずにこの高校に入学したのだ。
それでも、健介はクサル事無く、この高校で甲子園を目指しているのだ。
「僕も健介に負けない様に、頑張らないと」
一人でそう言って気合を入れる。何を頑張るかと言うと、安奈との距離をもっと近づけるという事だ。まぁ、今年こそは告白できる様にしたいと、心で願う。
そんな僕が、教室から出ると、ジャージ姿の女子生徒が声を掛けてきた。その顔立ちは可愛らしく、ジャージの色からして下級生だという事が分かる。
「すみません。倉田先輩。ちょっとお時間よろしいですか?」
「うん。大丈夫だけど……」
僕は彼女と面識がある。それは、初詣に行った時に一度会っているからだ。そう、彼女こそあの健介の彼女なのだ。
彼女の名前は鈴川 由梨絵
言うまでも無く、野球部マネージャーで、健介の彼女。少し天然な所があるが、健介はそこがまた可愛いと言う。小柄な体格でまるで小動物の様だ。
その健介の彼女の由梨絵が、僕に何の様なのか分からなかった。