第五十三通 好きという気持ち
楽しかった冬休みも終わり、三学期に突入した。
冬休みは殆ど安奈と一緒に居た印象があるが、実際は4日間だけしかあってない。まぁ、冬休みが短いからそう感じるんだろう。
相変わらず、自分の席に座りボーッとしている僕に、いつもの様に健介が話しかけてきた。
「どうだ調子は?」
「まぁまぁだよ」
明るい元気のある健介に対し、いつもと変わらぬトーンの声で僕はそう答えた。僕の前の席に腰を下ろしながらため息を吐く健介、少々呆れているのだろう。
「なんだ? まぁまぁってよ」
「う〜ん。良くも悪くも無いって感じかな」
僕はそう言って薄らと笑みを浮べる。すると、健介はまたため息を吐き肩を深く落とし、首を横に振りながら言う。
「最近、気が緩んでるぞ。もう少しシャキシャキ出来ないのか?」
これでも、僕はシャキシャキしている方だ。まぁ、他の人からはだらけてる様にしか見えないのだろう。
「それで、あれからどうよ」
「どうって、何が?」
訳が分からないという顔をして健介を見ると、またまた深いため息を吐きながら健介は呆れている。
「お前な……。本当に安奈ちゃんの事好きなのか?」
健介は顔を近づけ、周りに聞こえないくらい小さな声でそう言う。健介の息が顔にかかり、僕は体を仰け反らして返答する。
「当たり前の事聞かないでよ」
僕がそう言うと、変な目で健介は僕を見る。まるで、「本当に好きなのか?」と、言いたげな目だ。
確かに本当に好きなのかと言うのは、自分でもよく分からない。それは、僕が今まで恋の経験がないため、どういう気持ちが『好き』と、言う事なのか分からないのだ。だが、僕は『彼女とずっと一緒にいたい』と、言う気持ちで一杯だった。
「まぁ、お前の恋だから、俺が口出しする事じゃないんだけど、高校卒業するまでには告白しろよ。卒業しちまったら、忙しくてメールの事も忘れちまうかもしれないからな」
健介は立ち上がり僕の右肩を叩いて、その場を去っていった。僕は心の中で「ありがとう」と、呟き窓の外に目をやった。蒼く輝く空をスクリーンにして、安奈の顔を思い浮かべていた。
こうして、短い三学期が始まったのだ。