第五十二通 初詣
年も明けて朝早くから、僕と安奈は初詣に来ている。人が大勢来ていて、ゴチャゴチャとしていた。健介も彼女と一緒に来ると言っていたが、この様子だと健介と会うのは不可能だろう。
「やっぱり、人が多いね」
安奈はなかなか進まない人ごみの先を見ようと、背伸びをしながらそう言う。
「そうだね。もっと早く家出ればよかったかな?」
「う〜ん。どうだろう。早く出ても変らないんじゃないかな?」
背伸びをやめて少しため息交じりに安奈はそう言う。その様子から、まだ並んでいないといけないと悟った。
そして、並ぶ事数時間、ようやく僕等の番が回ってきた。僕は財布から5円玉を取り出し、投げ入れる。その後に、安奈が5円玉を投げ入れた。
(今年は、安奈に告白できますように)
と、僕は願った。まぁ、祈った所で告白できるとは思っていない。結局、告白するには僕が勇気を出さない事には……。
「さぁ、今度はおみくじ引こう!」
安奈はお賽銭を入れ終えて、すぐにそう言って僕の腕を引き走り出した。人ごみを分けながら、おみくじ売り場にやって来た。
僕の息は完全にあがっていた。
「ハァ…ハァ……」
「大丈夫?」
両膝に手をつき、下を向いたまま息をする僕に、安奈が心配そうに訊く。それに対し、笑いながら僕は返答する。
「大丈夫……」
「そう? 大丈夫そうには見えないけど?」
実際大丈夫じゃない。昨日痛めた腰の痛みが、ぶり返して来ていたのだ。だが、安奈に心配かけまいと、僕は無理に顔を上げて微笑んだ。
「マサが、大丈夫って言うならいいんだけど……。無理はしないでよ」
「うん。わかってるよ」
僕はそう言いながらおみくじを引いた。そして、安奈より先におみくじをみた。
結果は『吉』、まぁ良くも悪くも無い。全くもって普通だ。
「どうだった? 私は中吉だったよ。大吉じゃないのは、ちょっと残念だけど、凶じゃないだけましだよね」
「そうだね。僕は吉だったよ」
笑顔の安奈に僕はそう言って、おみくじを見せた。安奈はマジマジとおみくじを見て言った。
「失物、家の内にありだって。失くした物があるなら、家の中探し回るといいね」
安奈はそう言って僕の顔を見る。僕は安奈と目が合い、ドキッとして顔を真っ赤にする。安奈はその事には気付いてない様で、おみくじを見て更に言葉を続ける。
「あ〜っ。恋愛は時を待つべしだって。どういう事かな?」
「さぁ? とり合えず、焦るなって事じゃないかな?」
「そうなのかな?」
少し首を傾げると安奈はおみくじを綺麗にたたみ僕に返した。僕はおみくじを受け取り、財布に入れた。その後、健介達と合流して、色々と歩き回った。