第五十通 大晦日の大掃除
今年も大晦日がやって来た。毎年恒例の大掃除を僕は始めようとしていた。
両親共に家には居らず、毎年僕と恵利で大掃除をするが、去年は健介が手伝いに来てくれた。その健介は今年も手伝いに来てくれた。
そして、もう一人スペシャルゲストが来ていた。
「恵利ちゃん。これ、こっちに置いとくね」
リビングに明るい安奈の声が響く。そう、スペシャルゲストとは、安奈の事だ。今は実家に帰ってきていて、大掃除の話をした時に手伝うといって、家に押し掛けて来たのだ。
僕は安奈に住所を教えた記憶はない。多分、教えたのは和彦辺りだろ。
でも、安奈が来てくれたおかげで、健介もなぜかやる気をだし、大掃除も早く終わりそうだった。
僕と健介は窓拭きをしていた。家の中の掃除は殆ど終っているので、寒い中僕と健介は窓拭きをする羽目に――。しかし、窓なんて拭いてどうなると言うのだろうか。
疑問を抱きつつも真面目に、窓拭きを続ける。
「いや〜。今日は着て良かった」
何やら嬉しそうに笑顔を見せながら、健介は窓拭きをしている。何が嬉しいのかさっぱり分からないが、このまま会話が途切れるのもなんだし、一応僕は聞いてみる事に――。
「何だか嬉しそうだね」
「へへっ。当たり前だろ。安奈ちゃんに会う事は出来るし、美味しいそばまで食わしてもらうんだからな」
健介はそう言って、窓を拭く手を速めた。去年作ってあげたそばが、相当美味しかったのだろう。
「それより、安奈ちゃん可愛いな。お前とは月とスッポンって感じだな」
健介はそう言うと大声で笑った。その笑い声は多分、家の中にも聞こえたのだろう。安奈と恵利が、不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
僕はそれに対し、薄らと微笑み返した。すると、安奈は僕に可愛らしく微笑んだ。
いっきにやる気が湧いてきて、笑っている健介に言った。
「ほら、健介。笑ってないで早く窓拭き終わらせるよ」
「おっ。そうだったな」
僕の言葉に健介はそう言って、窓を拭く手を更に速めた。僕もその健介に張り合うように、窓を拭く手を速めるが、体力のある健介に勝てる訳も無く力尽きた。
「大丈夫? あんまり無理しちゃ駄目だよ」
安奈は優しくそう言いながら、僕の背中にシップを貼った。ひんやりと冷たいシップが、背中に貼り付き随分楽になった。窓拭きをしている最中に、腰を痛めてしまったのだ。
「ウ〜ッ……」
「お兄ちゃん張り切りすぎ」
唸り声を上げる僕に、恵利が呆れ顔でそう言った。まぁ、窓拭きやってるだけで腰を痛めるなんて、情けない奴が兄だと思うと普通に呆れるしかないだろう。
「お兄ちゃんがその様子だと、今日の年越しそばは無しかな」
「なーにー!」
恵利の言葉に健介が過敏反応する。そして、肩を落とし黙り込んだ。相当ショックだったのか、暫く何も言わずに固まっていた。