第四十八通 情けない
冬休みに入ったが、僕は補習のため学校に来ていた。外は雪が降っているため寒く、学校に来るのも一苦労だ。
教室には僕と健介の二人の姿しかなかった。意外な話だが、健介は補習には必ずやってくる。結構真面目な一面があった。
担当の先生は例の如く、プリントだけをおいて暖房のある職員室へと戻っていった。
静まり返った教室で、課題プリントと睨み合う僕の前の席に、健介が移動してきた。そして、ニヤニヤしながら僕の顔を見ている。何か言いたそうな顔だった。
「な、何?」
あんまりニヤニヤしながら、顔を見てくるので僕の方が先に口を開いた。そんな僕に、健介は「ジャジャーン」と、言って右手を見せた。なぜ、右手を見せたかわからず、僕は首をかしげた。
「右手がどうかした?」
「右手じゃなくて……。これだよ、これ」
健介はそう言って右手にはめている指輪を、外して僕に見せびらかす。その指輪が何なのか僕に分かる訳もなく、首を傾げると健介はため息を吐いた。
「何だよ……。反応なしかよ。クリスマスプレゼントだぜ」
「彼女からの?」
「そうだよ。もう少し反応したっていいんじゃないか?」
そう言った健介に、僕はわざとらしく言った。
「うわ〜っ。凄いな。僕も欲しい。これで、いい?」
「何だよ。投げやりだな。って言うか機嫌悪いな。どうかしたのか?」
確かに今日はあんまり、機嫌がよくなかった。別に健介が悪いわけじゃない。あの日の事を、未だに引きずっているからだ……。
あの日の事とは、クリスマスの日の事になる。
告白をしようと決心した僕だったが、結局告白する勇気が出ず、あの時に言った言葉は、
「今日は楽しかった。また、遊園地に来ようよ」
だった。本当に情けない。意気地なしとは、きっと僕の事を言うのだろう。
その話をすると、健介は僕の肩を二度叩いて言った。
「告白できなかったのか。残念だったな」
結構意外だった。もっと何か言われるかと思っていた。意外な言葉に、戸惑っている僕に健介は更に言葉を続けた。
「まぁ、そう落ち込むなって。別にフラれた訳じゃないんだしよ。まだ、時間はあるさ」
「それでも、情けないよ……」
そう言った僕の頭を、両手で健介は掻き毟った。それに驚き、僕は席を立った。
「な、何するんだよ。いきなり」
「そんなに悩むなって。誰だってすぐに告白できるわけじゃないんだ。情けないなんて言うな。俺なんて何度、告白に失敗してるか」
確かに健介は何度も告白に失敗している。その事を考えると何だか、気が楽になった。