第四十四通 ドキドキの待ち合わせ
僕は安奈との待ち合わせ場所に来ていた。駅前の噴水池の淵に腰を下ろし、安奈が来るのを待っていた。
時計台は刻々と時を刻み、僕の体は緊張して手には汗を掻いていた。右手に持っている紙袋を、傍に置いて手の平の汗をハンカチで拭いて、また紙袋を持った。
そんな事を何度も続けていると、駅の出入り口から安奈の声が聞こえた。
「ごめん。待った?」
「ううん。全然待ってないよ」
こう言う会話をすると、何だか付き合っている様な気分になる。そんな事を思うのは、僕だけかも知れない。
それにしても、今日の安奈はとても美しく見えた。暫く、見とれていると、安奈が怪訝そうな顔で、僕の顔を覗きこんできた。
「ねぇ。ぼんやりして、どうしたの?」
「えっ、な、なんでもないよ」
焦って僕はそう言った。そんな僕に安奈は微笑む。僕もそれにつられて微笑んだ。
「それじゃあ、行こうか」
「エッ、行くってどこに?」
僕のその言葉に、安奈はチケットを取り出して、白い歯を見せながら微笑むと言った。
「遊園地のチケット、姉さんから貰ったの」
「へ〜っ。お姉さんから」
安奈にお姉さんがいると言う事が驚いた。ずっと、一人っ子だと思っていたからだ。やっぱり、安奈に似ているのだろうか。
そんな事を考えながら僕は安奈についていった。
よく考えたが、遊園地に行くのって、何年ぶりだろう。幼い時に一度親戚のおじさんと、行ったっきりでそれ以来、遊園地に行った記憶はない。
まぁ、両親共に子供より仕事を優先していたので、僕も妹の恵利も休みの日は殆ど家にいた記憶しかない。
遊園地に向って歩いてる時に、その事をボソッと口走ってしまった。それが聞こえていたのか、僕の横で安奈が言った。
「そうなんだ。マサも大変なんだね」
僕は焦り無理やり笑った。あんまり、家の事を話したくなかったし、両親の話をするのが一番嫌だった。
そんな僕の気持ちを察したのか、安奈が笑いながら言った。
「それじゃあ、今日は思う存分遊園地を楽しもう」
「うん。そうだね」
安奈と並んで歩きながら、遊園地に向った。久しぶりに行く遊園地に、ドキドキしているのか、それとも、安奈と一緒にいる事にドキドキしているのか、わからないが僕の胸は強く鼓動を打っていた。