第三十九通 大切な友達
次の日、学校にはすでに僕が美樹をフッたと、言う事が知れ渡っていた。その状況をこっそり、見ていた奴がいたらしい。それが、誰かは分からないが、そう言う話が広まるのは、早かった。
その日、僕はクラス、いや、同じ学年の男女共から、冷たい視線を集めていた。教室でもその話をコソコソと、話している連中が居て、何だか居づらかった。美樹の方は、学校を休んでいた。やっぱり、傷ついたのだろう。
そんな事を考えていると、僕の席を5人の男子が囲んでいた。知らない顔の奴も居て、何やら怖い顔をしている。嫌な予感がしていた。
そして、その予感は的中した。
僕は人気の無い校舎裏へと連れて行かれた。壁に押しのけられた。
「乱暴は止めようよ」
僕はそう言って彼らの顔を見た。やはり、怖い顔をしている。
「お前、何様のつもりだ」
「何様って……」
言い返そうとした僕の右頬を、目の前に立つ男が殴った。僕は地面に倒れて、目の前の男を見上げた。男は指の骨を鳴らして、僕を見下していた。
そして、5人の男はそのまま僕を、蹴りつけてきた。全身に痛みが走る。僕は何も出来ず、ただ痛みに耐えるしかなかった。
「お前等! 何してやがる!」
遠くから誰か男の声が響いた。聞いた事のある男の声が……。僕を囲んでいた男子生徒は、その男の声で一目散に逃げだした。男は僕に駆け寄った。その時に、初めてその男が健介だと気がついた。
「大丈夫か! マサ」
僕の体を起こし、健介はそう言った。僕の耳には微かにしか、その声は聞こえなかった。そして、そのまま気を失い、目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。
「おい、大丈夫か?」
「うん……。大丈夫」
「ったく、お前が5人組に連れてかれたって、聞いてわざわざ行ってみれば……」
呆れ顔で健介はそう言って、笑っていた。多分、健介が助けに来てくれなければ、僕は今頃どうなっていたか。今まで色々あったが、健介がいい奴だとこの日知った。
「それで、本当に美樹をフッたのか?」
突然、健介はその話をした。別に隠すつもりは無かった。だから、健介には全てを話した。映画に行き、ファミレスで食事をして、公園で告白されたと。
その話を聞いて、暫く健介は黙っていた。やはり、怒っているのだろうか。そう思うと、健介の顔を見る事が出来なかった。視線を逸らした僕に、健介が肩を叩きながら言った。
「まぁ、お前の事だ。他に好きな人が居るから、断ったんだろうな。それか、好きでも無いのに、簡単に付き合うなんて出来ないよな」
僕は嬉しかった。健介がこんな風に僕の事を心配してくれる事が……。視界が霞み、涙が溢れそうになったが、健介が居るので涙は堪えた。
「それより、美樹は学年でもかなり人気のある娘だ。その美樹の告白を、学年で最も目立たないお前がフッた事で、男子も女子もお前に怒りを覚えてるぞ」
「えっ……。男子はともかく、何で女子が?」
僕がそう訊くと、健介はため息を吐き頭を描きながらゆっくりと口を開いた。
「実は美樹がお前の事を好きなのは、殆どの女子が知っていてな。それで、告白する様に背中を押したのも、学年の殆どの女子らしい。それが、告白したらフラれた。あいつは目立たないくせに、美樹をフルなんて何考えてんだ、だとさ」
そう言って、健介は首を横に振っていた。まぁ、当然の事だろうと思った。目立たない僕が、学年でも人気の美樹の告白を断ってしまったのだから……。落ち込む僕に、健介が笑いながら言った。
「まぁ、俺と和彦はお前の味方だ。何かやられそうになったら、いつでも呼べよ」
そう言って、白い歯を見せながら笑っていた。健介と友達でよかったと、心からそう思った。