第三十八通 最悪で最低の男
食事を済ませた僕と美樹は、近くの公園に来ていた。とても広い公園で、中央に大きな池がある。その池がとても澄んでいて、心が落ち着く感じがする。
しかし、この公園もカップルが多い。しかも、二人でマフラーを巻いて……。何か、無性にムカつく。自分の恋が実らないから、他の人が上手くいってるのを見ると、そんな感じになるんだろう。
ベンチに僕と美樹は、並んで座り池を見ていた。やはり、沈黙が続いた。何か話そうと、考えている僕に、美樹が口を開いた。
「今日は、楽しかったです」
「そっか。僕も、楽しかったよ」
「そうですか。そう言ってもらうと、嬉しいです」
そう言って美樹は今日一番の笑顔を見せた。そして、この笑顔が今日最後に見た笑顔だった。
その後、何が無い会話をしていた僕と美樹だったが、次第に日が暮れるのが分かった。
「そろそろ、帰ろうか」
「そ……そうですね」
少しオドオドした様子で、美樹はそう返事をした。どうしてオドオドしているのか、僕には分からなかった。ベンチから、立ち上がった僕に、美樹がゆっくりと口を開く。
「あの……。実は、今日伝えたい事があったんです」
「伝えたい事?」
「はい……」
小さく返事をした美樹は、ゆっくりと深呼吸した。僕には何がしたいのか、全く分からなからず、美樹の方を見ていた。そんな僕に、美樹がゆっくりと口を開いた。
「初めて会った時から、好きでした。も、もしよければ、私とお付き合いしてもらえないでしょうか」
「――!?」
驚きを隠せなかった。なぜ、美樹に告白されたのかも、よく分からず頭の中が混乱していた。何も言わない僕に、美樹が声を掛けた。
「あの……」
この言葉で、僕は正気に戻った。そして、美樹に返事を返した。その瞬間に、美樹は泣き出し、走り去ってしまった。
僕は勇気を出して告白してくれた、美樹を傷つけてしまった。でも、他に好きな人が居るのに、美樹の告白を受けて別れてしまえば、さらに彼女を傷つけると思い、告白を断ったのだ。
何だか、涙が溢れてきた。もう訳が分からなかった。僕は最悪で最低の男だ……。
そして、重い足取りで家に帰った僕を、恵利が冷たい目で睨みつけていた。恵利は、美樹が僕の事を好きだと言う事も、今日告白する事も全て知っていた。
そして、僕が美樹の告白を断ったのも……。