第三十六通 美樹からの誘い
勉強会のかいもあってか、何とか健介は赤点を免れた。こっちは、健介に振り回され、全く勉強にならなかったが、健介が赤点じゃなかった事は、友達として嬉しかった。これで、健介から開放されると、思うと嬉しくて涙が出そうだった。
久々に休日をゆっくりと過ごしていた。もちろん、ベッドで横になって漫画を読んでいるだけなのだが……。
そんな時、携帯音が机の上で鳴り響いた。しかし、僕も学習能力が無いのか、今回も例の如くベッドから落ちた。理由は言うまでも無いだろう。
メールが届いていた。しかも、安奈では無く美樹からだった。
『あの……。今日は、暇ですか? もしよければ、一緒に映画でも行きませんか?』
女の人に映画に誘われる何て、初めての事で戸惑ったが、断る理由も無かったので映画に行くと返事を返した。
しかし、映画館で映画を見るなんて、もう何年ぶりになるだろうか。あんまり、いい想い出が無かったから、忘れてしまっているのだろう。
僕は待ち合わせ場所の、映画館の前に来ていた。映画館の周りは、流石に沢山の人が居る。殆どがカップルで、何だか自分が場違いの所に居る気がした。
この人込みだと……美樹を探すのは大変そうだった。美樹の方も、僕を探すのは大変だろう。そう思い、僕はとりあえず、メールを送る事にした。
『今、待ち合わせ場所にいるんだけど、この人込みじゃ探すのに苦労しそうだから――』
内容が長くなりそうだったので、一部省略。と、まぁ自分の服装を詳しくメールで送った。そのメールを送った直後、美樹の声が僕の耳に届いた。
「倉田君。こっちです」
「おはよう、美樹」
白いワンピースの美樹は、制服姿と違い何だか新鮮な感じがした。しかしまぁ、本当に眼鏡がよく似合う。
「今日は、誘ってくれてありがとう」
「いえ。丁度、チケットを2枚貰ったんで……」
「でも、何で僕なんかを?」
「エッ!? その……」
急に口ごもった美樹。何か、聞いちゃいけない事でも、聞いてしまったのだろうか。そう思った僕は、とりあえず映画館に入ろうと言って、話を進めた。カップルだらけの映画館に入るのは、何か気が引けたが、それはしょうがなかった。