第三十三通 安奈の部屋
初めて女の子の部屋に入った。
とてもいい香りがして、清潔感のある部屋だった。いたる所にぬいぐるみがあるのが、また女の子らしいと思った。
僕はテーブルの前に、緊張しながら正座をして座っていた。
安奈は僕の事など、全く気にしていない様子だった。
「マサは、何か飲む?」
「ぼ、僕はいいよ」
「遠慮しなくていいよ」
「で、でも……」
「もう……。ハッキリしないな」
「ごめん……」
とりあえず、謝った。安奈は微笑みながら、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。
「それじゃあ、オレンジジュースでいいよね」
「う…うん……」
嬉しそうにコップを2つ取り出して、僕の向かいに安奈は座った。そして、オレンジジュースをコップに注ぐ。オレンジジュースを注ぎながら、安奈は不思議そうに僕に訊いた。
「ねぇ、どうして私がこの寮に居るのわかったの? 教えてないよね」
「う、うん。和彦に聞いたんだ。どうしても、プレゼント渡したくて……」
「プレゼント?」
首を傾げながら安奈は僕の事をジッと見る。僕は申し訳ない気持ちで一杯だった。もちろん、プレゼントを買っていないからだ。
何とか、言い訳をしようと思ったが、やっぱり正直に言う事にした。
「ごめん。プレゼント……」
「いいの。別にプレゼントが欲しくて、マサに誕生日だって教えたんじゃないんだから。ただ、祝って欲しかっただけだから」
そう言って安奈は、僕に優しく微笑む。僕も少しは気持ちが楽になった。
「でも、来年はプレゼント欲しいな〜」
「わ、分かってるよ。来年は、絶対買っておくから」
甘える様な声でそう言った安奈に、僕は戸惑いながらもそう言った。まるで付き合っている様だった。プレゼントは買い忘れたが、安奈に会いに来てよかったと思った。
僕と安奈は楽しい会話をして、時を忘れていた。気がついた時には、外は真っ暗になっていた。
「そろそろ、僕帰るよ。今日は、プレゼントごめんね……」
「もういいよ。来年は、お互いに誕生日プレゼント用意しようね」
「うん。それじゃあ、またメールするね」
「待ってるから」
僕は微笑む安奈に手を振り、安奈の寮を後にした。
その後、僕は苦手な乗り物(電車)に、1時間も揺られ、吐きそうになりながら家に帰ったのは、言うまでも無いだろう……。