第三十二通 緊張の瞬間
僕は電車の中に居た。
その理由は、安奈に誕生日プレゼントを渡すためだ。だが、僕は電車に乗ってから気付いた。プレゼントを買っていない事に――。
電車は案外空いていて、僕は座席に座る事が出来たが、その肩は落ちて暗い雰囲気を辺りに撒き散らせている。実は僕は物凄く乗り物に弱かった。
プレゼントを買ってない事もあったが、電車に長時間揺られて、体が悲鳴を上げ始めていた。
「ううっ……」
気持ちが悪く、物凄く吐き気がする。胸がムカムカして、何度も吐きそうになるが、それを何とか耐えていた。
電車に揺られて1時間が過ぎ、ようやく目的の駅に辿り着いた。その時には、足取りも重く頭がズキズキと痛んでいた。帰りも電車に乗ると思うと……。
まぁ、そんな事はいいとして、僕は携帯を開き時計を見る。すでに、3時になろうとしていた。プレゼントを買いに行っている時間があるだろうか。そんな事を、考えていたが足は自動的に、和彦の教えてくれた安奈の寮の場所に向っていた。
足が進むにつれて、緊張していった。心臓は鼓動を強めていく。自分が何を考えているのか、全く分からなくなった。気付いた時には、安奈の住む寮の前に立っていた。
寮に入っていく女子生徒達は、僕の顔を見て首を傾げて口を押えながら笑う。何がおかしいか分からなかったが、多分僕の顔が緊張で強張っていたのだろう。きっと、それがおかしかったのだと思う。
暫くして、安奈の声が僕の耳に届く。その声は明るく暖かみのある声だった。
「マサ!? エッ、どうしたの? こんな所まで」
「いや……。誕生日だって、言ってたから……」
「そうだけど、学校どうしたの?」
不安そうな顔をしながら、安奈はそう言った。
僕は初めて見た、安奈の制服姿に見とれていた。そのおかげで、頭をバッグで引っ叩かれた。
「ねぇ、聞いてるの? マサ」
「き、聞いてるよ……」
「もう……」
呆れ顔で安奈はため息を吐き、僕に微笑みかけて言う。
「それじゃあ、私の部屋行こうか。ここで、立ち話もなんだし」
「エッ!? で、でも……」
「私の部屋じゃ、不満?」
「いや……そんなつもりじゃ……」
まさか、こんな展開になるなんて、思っても見なかった。頭の中が真っ白になり、心臓の強い鼓動だけが、聞こえていた。
今回、早くも総アクセス数が2000人を突破しました。
僕としては、前代未聞の事でまだ信じられません。評価などもいただき、ありがたいかぎりです。
これからも、頑張っていくので、感想や指摘などがありましたら教えてください。
これからも、よろしくお願いします。