第三十通 登校
足取りも軽く、僕は学校へと向っていた。朝だけあってか、何台もの車が僕の横を横切っていった。
住宅が建ち並ぶ道を歩いていると、目の前のわき道から美樹が出てきたのが見えた。美樹も、僕の事に気付き立ち止まっている。
「おはようございます」
「おはよう」
頭を下げる美樹に、僕は軽くそう言って微笑んだ。学校に行く時に、美樹に会うなんて滅多にない。実際、僕がこんな早く家を出る事が珍しいからだ。
「美樹は、いつもこの時間帯に学校に?」
「えぇ。早めに学校に行って、草花に水をやるので」
「大変だね。生徒会って、そんな事までやってるんだ」
「いえ。これは、私の日課なんです」
穏やかな笑みを僕に見せながら美樹はそう言った。日課で学校の草花に水をかけるなんて、凄く優しい人なんだな、と思っていた。
「今日は寒いですね」
突然、美樹がそう言った。やっぱり、沈黙が続くのが嫌だったのだろう。僕は何て、気の利かない奴なんだ。そう思いゆっくりと、肩を落としながら返事をした。
「そうだね。もう、11月だから」
「そうですね。時は進むのが早いですね」
「もうすぐ二学期も終るし、あっという間だね」
「そうですね……」
そう言って美樹は寂しげな瞳で前を見ていた。
確かに時が進むのは早い。つい最近、二年に上がった気がしていたが……。そう感じるようになったのは、安奈とメールを始めてからだ。
楽しい事は時が過ぎるのが早いと言うが、まさにその通りだと思った。
「倉田君は、進路とかどうするんですか?」
突然の質問に、僕は驚きつつもその質問に答えた。
「し、進路はまだ、決めてないよ。美樹は、やっぱり大学行くの?」
「父も母も、それを望んでますが、私は……」
急に美樹が口ごもり、深刻そうな表情をしていた。その口ぶりからすると、親は大学に行ってほしいが、美樹は他にやりたい事があるという感じだろう。だが、僕は深く聞かない事にした。美樹も、話したくないだろうし、話を聞いた所で僕には何も出来ないからだ。
その後、何気ない会話をしながら、僕と美樹は学校に向った。