第十九通 妹に圧倒される兄
安奈に言われた通り、僕は美樹にメールを送ることにした。
しかし、何と送って良いのか悩んでいた。
ベッドに横になり、携帯を片手にずっとため息を吐いていた。
と、その時部屋のドアがいきなり開いた。
びっくりして、僕は飛び起きた。
部屋に入ってきたのは、妹の恵利だった。
お風呂上りの恵利は、パジャマ姿にタオルを頭からかぶっていた。
「な…何?」
部屋の中を見回す恵利に僕は聞いた。
恵利が僕の部屋に入ったのは、多分小学五年の頃が最後だろう。
テーブルを挟んで向かいに座った恵利は、何だか起こっている様子だった。
何故かは、わからなかった。
部屋の中に重苦しい空気が漂った。
そして、恵利がゆっくりと口を開いた。
「お兄ちゃん。何か忘れてない?」
「はい?」
何の事か全く分からなかった。
恵利と何か約束した覚えは無かったからだ。
高校に入ってからは、ろくに口も訊いてなかったから、約束なんて無いはずだ。
そんな事を思っていると、恵利が激しくテーブルを叩き、立ち上がった。
あまりの迫力に僕は仰け反り、壁に後頭部をぶつけた。
僕の顔を鋭く睨みつけながら恵利は怒鳴った。
「美樹先輩にどうして、メール送ってあげないの!」
「な…何で……」
『何でその事を知ってるんだ』と、言おうとした時、大事な事を思い出した。
確か恵利は美樹と同じ、生徒会にも属していた。
だから、美樹とも仲がいい。
その事をすっかり忘れていた。
僕の顔を睨みながら、恵利が言葉を続けた。
「アドレス忘れた、教えてあげるから、返事送りなさいよ!」
「いや……。アドレスは分かるよ。アドレス書いた紙持ってるから……」
「それじゃあ、早く送りなさいよ!」
「いや……。僕と美樹さんって、共通点が無いから……。何て送って良いのか……」
完全に恵利に圧倒されている僕は、小声でそう言って恐る恐る恵利を見た。
少し恵利は呆れていた。
「あのね……。別に共通点なんて必要ないでしょ!
それに、話題は沢山あるでしょ!」
「それは……そうだけど……」
「全く。今日中にメール送りなさいよ。わかった?」
「……はい」
結局、それしか言い様が無かった。
恵利が部屋を出て言ってすぐ、僕は美樹にメールを送る事にした。
内容は
『メール、送るの遅くなってごめん』
と、一行だけだった。