第十七通 アドレスの書かれた紙切れ
安奈とのメールを始めて、早半年がたった。
時の流れと言うのは実に早い。
つい最近二年生になったかと思えば、もう半年が過ぎてもう自分の進路に向けて、勉強をしている者もいた。
未だ僕の進路は決まっていないが、あんまり気にはしていない。
そんな事を思いながら、席に座っていると、意外な人物が僕に声をかけてきた。
「あ…あの……」
黒髪を腰まで伸ばした、眼鏡をかけた女子生徒。
身長は僕よりも小さく、ふっくらとした顔つきだ。
僕は彼女の事を知っていた。一応、同じクラスだが、話した事はない。
男子から結構人気のある美樹言う名前の女子生徒だ。
彼女のフルネームは篠山 美樹。
僕と美樹の共通点は全く無い。
美樹は僕と違い頭もよく、クラスの人気者。
おとなしい性格だが、眼鏡が似合うとても可愛らしい娘。
でも、声を掛けられる覚えは無かった。
「な…何?」
あまり、女子と話した事の無い僕は、急に声を掛けられて緊張した。
そんな僕に美樹は一枚の紙切れを渡した。それが、何なのかわからなかったが、一応受け取った。
手紙では……ないようだが……。
そんな事を思っていると、美樹が頬を赤く染めながら言った。
「わ…私のアドレスです……。よかったら……、メールください……」
そう言い残して、美樹は去っていった。
呆然としている僕の周りに、クラスの男子生徒たちが群がり、美樹のアドレスが書いてある紙切れを、奪おうとしていた。
「うわっ!やめろよ!」
僕の叫び声はむなしくかき消され、周りの男子生徒達には届かなかった。
もみくちゃにされながらも、僕は何とかその場を抜け出す事に成功。
そのまま教室を出て、トイレに隠れて騒ぎが収まるのを待った。
その手の中には美樹からもらった紙切れがしっかりと握られていた。