第十六通 ついにやって来た春
九月ももう終わり、十月に移り変わろうとしている。
十月に文化祭のある僕の通う学校では、すでに生徒会を中心に準備を始めていた。
僕のクラスは漫画喫茶をやる事になった。
漫画喫茶なんて、どこの誰が提案したのか。
と、言うか漫画喫茶などやって、人が集まるのだろうか。
そんな不安もあったが、クラスの皆はやる気十分だった。
そして、例の如く僕の前に健介がやって来た。
今日はやけに機嫌がいい。理由は分からないが、いい事があったのだろう。
「今日は、機嫌がいいね」
僕の前の席に座った健介にそう聞いた。
「オオッ! 分かるか!」
すると、健介は笑いながら僕の肩を叩いた。痛かった。
でも、僕は痛みに耐えながら笑顔を崩さずに頷いた。
「実はな。俺にも春が……」
「来たの?」
健介が言い切る前に僕が言った。その瞬間に健介が拳を振り上げた。
僕は殴られると思い、両腕で顔を覆った。
しかし、拳は飛んでこなかった。ゆっくり腕を下ろすと、健介が笑っている顔が見えた。
「ど…どうしたの?」
恐る恐るそう聞くと、健介は嬉しそうに語りだした。
「俺も、ついに彼女が出来てな。野球部のマネージャーで、一年生なんだけど……」
聞いていない事まで語りだした。こうなっては、もう止める事は出来ない。
休み時間には、安奈にメールをするはずだったのだが、結局ずっと健介の話を聞かされる羽目になってしまった。
学校が終わると、ドッと疲れが襲い掛かった。
健介が何度も同じ話を聞かせてくるので、昼休みもゆっくり休む事が出来ず、安奈にもメールを送っていなかった。
しばらく、机にうつ伏せで倒れていると、携帯が激しく震えた。
安奈からのメールだった。
『今日はどうしたの? 返事が、なかなか返ってこないけど?』
僕は、今日の出来事を全てメールで送った。
『そっか、同じ話を何度も聞かされる何て、大変ね。
これから、練習始まるから、暫くメールできないけど、終ったらメールするね』
『うん。わかった』
僕はそう返事を返して、疲れを感じながらも教室を出た。
その夜、安奈とメールのやり取りをして、一日を終えた。