第十通 春が…来た?
安奈と会ってから、僕はいつも安奈の事を考えるようになった。
きっと、彼女を好きになったのだろう。もちろん、片想いなのだろうが……。
そんな事は百も承知だ。それでも、良いと思っている。
授業中もボンヤリして、全く頭に入らなかった(何時もの事なのだが……)。
そんな僕の前に何時もの様に、健介がやってきた。
毎日毎日、いい娘を紹介してくれと言って来る。きっとこの日もそうかと思っていたが、違った。
「マサ! 俺にもようやく春が来たぞ!」
「もう夏休みになるんだけど……」
僕は冗談半分でそう言って笑おうとしたが、健介が鋭い目つきで睨んでいるのに気付き静止した。
その目つきの鋭さに体を後ろに引いた。
今にも殴り掛かってきそうだったので、僕はいつでもガードできる様に机の中のノートに手を伸ばした。
しかし、鋭かった目つきは和らぎ、急に笑みを浮かべ始めた。それが、余計に恐ろしく感じた。
「フフフフッ……。それじゃあ、俺は彼女を口説いてくる」
僕は一つ忠告しようとしたが止めて置いた。
何て言おうとしたかと言うと、
「その娘の前では、その笑い方は止めた方がいいよ」
だった。多分、言った瞬間に僕の意識が吹っ飛んでいるだろう。
健介は軽快な動きで席を立ち、鼻歌を歌いながら僕の前から去っていった。
その後の話で分かったが、やっぱり彼はその娘を口説く事が出来なかったと、言う。
理由は聞かなかったが、大体の検討はつく。
その後、僕は散々彼の愚痴を聞かされ、安奈にメールを送る事も出来なかった。
どちらにしても、この日安奈からは一通もメールが届かなかった。
理由は分からないが、とても不安だった。
嫌われたてしまったのじゃないかと……。