第九十八回 米と箱
勝手知ったるダチの家とばかりに、安アパートの一室に入った。
「おーい、生きてるか?」
ゴミが散乱した部屋の中央には、敷きっぱなしの煎餅布団。ソコにヤツがぐったりした様子で倒れていた。ぐーぐーと盛大に響く、腹の音。
「はらへった……」
「どうせ食料がなくなって、困っている頃合いだろうと思ってな。米を持ってきてやったよ」
ナイロン袋に入った米を差し上げた。途端、ガバッと飛び上がる。現金なもんだ。
「持つべきは親友だなあ。ちょっと待ってくれよ、用意するから」
といってヤツは部屋を飛び出して行った。どこへ向かったんだ? 俺はゴミをどけて出来たスペースに座り、しばらく待っていた。
そして帰ってきたヤツは、えらく悲しそうな顔をしていた。
「すまん……せっかくの米なのに、貰うわけにいかなくなった」
「おいおい、どうしたんだ」
「実は米びつが底をつく度に、邪魔だからって米びつを処分していたんだけど。あんまり何度も米びつを買うから、もう店から米びつが売り切れていたんだ……これじゃあ、せっかく米を貰っても、それを入れる米びつがない」
「うん、だからお前は貧乏なんだよ」