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第八十五回 息子と妖精
「聞いたよ。息子さんが産まれたんだって? おめでとう」
「あ……ああ」
「何だ何だ。気のない返事をして」
「妖精の取り替え子[チェンジリング]って知ってるか?」
「産まれたばかりの赤ん坊を妖精が攫って、自分の子と入れ替えるっていう、ヨーロッパの伝説だったっけ」
「産まれた子がさあ、本当に自分の子だって自身が持てないんだ」
「おいおい」
「別に嫁さんを疑っているとか、そういうんじゃないんだよ。ただ自分が父親になったことへ、違和感があるというか」
「だったら……コレを見てみろよ!」
といって赤ん坊の産着を剥ぐと、首の付け根に星形のアザがあった。
「こっ、これは我が一族の者に必ずあるアザ! 間違いない。この子はまさしく我が息子だ」
「納得したかよ」
「ああ。気が晴れたよ。どうやら自分の子じゃない、だなんて考えていたのは妖精の仕業なんかじゃない。『気のせい』だったらしい」
「うまいことまとめんなや」
「ようせいだけに、きのせい!」
「いや、しつこい」