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第八十三回 あだ名とホラー
「おぉーい、ホラー」
「何か用事か?」
ホラーと呼ばれた人物は、振り向いた。彼のあだ名は「ホラー」なのである。
「いや別に大した用じゃないんだけどさ……にしても、お前ってどうしてホラーって呼ばれてるんだ。変なあだ名だよな」
「いや自分にも分かんねえよ。知らないうちに人がそう呼び出しただけで」
「心当たりはないんだ」
「ないどころか。オレをホラーって呼んでいる人だって、見覚えのない人ばっかでさ」
「見覚えがない?」
「そうさ。見も知らぬ赤の他人が、いきなりオレをホラーって名前で呼びつけるんだ。それも老若男女バラバラな関係なさそうな人たちが」
「そりゃ恐いな」
「ああ、気持ち悪いったらありゃしない」
「それはそうと……もしかして、あなたをホラーと呼ぶ、わたくしの顔もあなたは知らないのではないですか?」
親しげに話していたはずの、そこにいたのは確かに、見も知らぬ人物であった。