第七十四回 クトゥルー的ハンバーガー・ベーコン1050枚乗せ
俺はルポライターだ。現在、雑誌の企画でとあるハンバーガー店の取材に来ている。この店ではいま、ちょっと追加料金を払うことでハンバーガーにベーコンを乗せてくれるサービスをしているのだ。
だから試食がてらにレポートし、宣伝しようってわけだ。
だったはずなのに。何じゃ、こりゃ。俺の目の前にある物体は。
「せっかくだし、ベーコンを1050枚乗せてみたから!」
すげえ満面の笑みで編集長。ちょっと待って、聞いてないです。
「驚かせないと、企画として面白くないしな。じゃっ、残さず食べろよ?」
ライターを驚かせてどうする。驚かせるのは読者だろ。
ベーコンを山と乗せられたハンバーガー。肉肉肉肉肉の積層構造体。その姿たるや、もはや食物とすら言い難い。まるで全身から無数の触手を広げた、異形の神像のようだ。名状しがたい禍々しさすら感じる。
だが食べるからには、テンションをアゲアゲで行かなくては。実際、俺は貧乏ライターの身。動物性タンパクの摂取なんて久しぶりだ。
ヒャッハー! 肉だ肉だァ!
俺はベーコンの山にかぶりついた。見た目のグロさはどうあれ、肉は肉。美味い美味いと食べ続ける。……のも五分か十分が限度だった。ベーコンの塩分は俺の血圧を呵責なく上昇させる。口元は油でテラテラと光る。胃がこれ以上の脂分を拒絶していた。
ううう、キッツいなあ。口直ししたい。
そこで俺はようやく、違和感の正体に気付く。
さっきから俺はベーコンばかり食べていて、他のモノを食べていない。というより、このハンバーガー。ピクルスがない、レタスがない、いやハンバーグもなければ、そもそもパンズすらない。
「おい、このハンバーガー。ピクルスもレタスもハンバーグもパンズもねぇじゃないか。どうなってんだ」
俺は店員に食ってかかった。すると0円の営業スマイルで対応される。
「そちらの方は別料金になりまぁす(ニッコリ)」
追加料金でベーコンを乗せるはずなのに、ハンバーガー部分の方も別料金かよ。ふざけんな。ハンバーガーをバカにし過ぎだろ。この世にハンバーガーの神様がいたとしたら、きっと怒り出すぞ。なんて冒涜的なんだ。
もうこの店は狂っているとしか思えない。あるのはただ、ベーコンの山、山、山。
コイツはまさしく、ハンバーガー界の狂気山脈や!
津久ヶ原シャログくんからのお題リクエスト。三連発の最後、三発目になります。