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第六十七回 女子校生がモンスターハンター

「高校には進学しない!」

 台所で母と娘が口論をしていた。ふたりを挟んで間のテーブルには、白紙の進路調査書がある。

「私は夢があるの。だから高校なんて行ってる暇ないの。モンスターハンターになるためには!」

 母は深い深い溜息をついた。

「ねえ紅貴[あき]。お母さんは別に、あなたの夢に反対しているわけじゃないのよ。でも、その夢は高校を諦めないと叶わないのかな?」

「だって、ほら。わたしくらいの年でもプロになっている人だっているんだし」

「そんなのエルフとか、生まれつきの魔力を持っている人くらいでしょ。でないと、仕事として長続きはしないわよ」

 紅貴はうぐっ、と息を呑んだ。

「いっときますけど、だからって、おかしな専門学校に行くんだったら、私は反対ですからね。あんなの大体がインチキなんだから」

 実は後ろ手に隠し持っていた入学パンフレットを、だが出す機会を潰されてしまう。紅貴は早くも八方塞がりになってしまった。

 二の句が継げない様子の紅貴を見て、母は口調を優しげに変える。

「ねえ紅貴? お母さんは昔、家の仕事が不景気だったから、自分が思った通りの高校へ行けなかったことがあったの。高校に行ってからも家計を助けようとしてバイトばっかしててねえ。知ってた?」

 ぷるぷると首を横に振る紅貴。

「だから自分の娘は、っていうの夢だったの。高校に行ったってモンスターハンターはできるでしょ。まずはバイトから始めてみなさい。受験が終わって、入学までの春休みになら教習所にだって通わせてあげるから。攻撃魔法のひとつも覚えてきなさい」

 紅貴の表情に迷いが挿す。どうやら心の天秤は大きく揺れているらしいな。そこで母は一押し。

「無事に合格したら、入学祝いも買って上げるから」

「本当!?」

 途端に紅貴はだだだだっと自分の部屋へ走り、付箋だらけのカタログを手に台所へ戻ってきた。

「ねえねえ。私これが欲しい! 砲槍カノンランス」

「あらまあ、また渋いモノを……。最近流行のリボルバー・ブレードとかじゃないのね」

「なぁにいってんのよ。三連装と少ないんだけど……中級以下の攻撃魔法をチャージできる魔晶石により必殺技の発動を補助。ドワーフの名匠ムネカズが設計して二十年。未だに陳腐化していない、ジャムが少ない安定の機構。今でもファンは多いんだから!」

 はいはい、と聞き流しながら母はカタログを何となくめくってみる。

「そういえば……紅貴の成績なら、A校くらいは頑張れるわよね? よーし、決~めたっと。A校なら砲槍カノンランスね。それ以外の学校なら、ショートスピア。けってーい」

「ずっるーい。……分かったよぅ。頑張るよぉ」


 その夜。妻からことの顛末を聞いて、夫は晩酌をしながら笑った。

「ははは。仕方ないなあ、紅貴は。昔の君にソックリだよ」

「笑い事じゃありません。こっちはどうしようかと困ってたんですからね」

 といいながらも妻は作業の手を休めた。

「実は君だって嬉しいんじゃないのかい? 君がソレを手入れするのも久しぶりじゃないか。紅貴の入学祝いの予定になるのかな?」

「もうっ。意地悪いうのなら、今日のお酒はココまでです!」

「おいおい、つれないな~」

 妻はウイスキーのボトルを奪い取ってしまうと、シンク下の収納へ片付けてしまった。と一緒に、さっきまで手入れしていた長槍もしまってしまう。

「屠竜機槍グラン・クリムゾンかぁ。本当に懐かしいや」

 鋼鉄よりも固い竜の鱗をも易々と引き裂く、自らの牙のみで北方最強と謳われたドラゴン・戮竜グランドレイク。彼は自らに勝利した強敵へ、友情の証として片方の牙を与えた。その牙をドワーフの名匠ムネカズが自らの手で刃として鍛え、砲槍カノンランスに組み込む。と同時に芯地はオリハルコンに換装して強化。また当時としては珍しいカートリッジ方式の採用によって、装弾できる魔晶石の数は十八連となる。

 結果できた、人の手による中では、まさしく最強の刃。その銘が屠竜機槍グラン・クリムゾンである。

「いや本当、君らは似た者母娘だよ」

 と父は苦笑した。

お題ですが、電波が降りてきたので書いてみました。

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