表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/100

第六十回 核シェルターと庭園

 核戦争終結から百年後。生き残った人々の努力により、環境汚染は奇跡的に消滅した。

 だが各地に作られた核シェルターは開こうとしない。そこで時の政府により、核シェルターへ逃げ込んだ人々の救助事業が行われることとなった。

 レーザーカッターで分厚い隔壁を切断しながら、作業員は隊長にぼやく。

「さすが噂に聞く、最大にして最初の核シェルター。隔壁ってより、山か岩盤みたいだ。通じやしねえ」

「まあまあ。そう愚痴るな。中には前世紀の芸術品が集められ、美しい庭園が広がっているというぞ? やり甲斐のある仕事じゃないか」

「とはいっても、金持ちどものために、なんでワザワザ……」


 ここは「最大にして最初の核シェルター」と呼ばれている。

 当時、世界中の富を独占していた一部の人間は、欲のために核戦争を引き起こした。そして自分たちは豪奢な核シェルターを建造し、真っ先に逃げ込んだのである。地上に残された人々を見捨てて。

 隔壁の前にがる黒い染みは、集まった民衆を虐殺した跡だ。

 救助事業が行われるにしても、このシェルターにだけは反対意見が出るのも仕方のないことだった。


 何日にも亘る作業の末、ようやくシェルターの隔壁に穴が空いた。

「よし、では内部の探索を行う」

 救助隊がシェルター内部に入ると、そこは真っ暗だった。おかしい。資料によれば中には千年以上は動く発電機に、完全なる空調施設。食料も数百年分は備蓄があると記されているのに。

「隊長、美術館らしき場所を見つけました!」

 美術館。前世紀における、人類の貴重な芸術的遺産が集積されている場所だ。だが美術館も悲惨な状態になっていた。彫像は砕かれ、絵画は引き裂かれ、跡形もない。

 いったい、ここで何が起こったというのだ。こうも暗くては、様子が分かりづらい。


「発電所だ、発電所を探せ」

 隊員たちはまず、内部電源を復活させることにした。作業の末に、シェルターが照らし出される。そこに繰り広げられていた光景を見て、隊員たちは愕然とした。

 シェルター内には、生存者がひとりもいなかった。死体の山、山、山だ。皆、白骨化して久しい。だが、どの死体にも損壊がある。更には刃物や、大きな岩といった、原始的な武器を手にしていた。男も女も、大人も子供も、全ての死体に例外なく。

 どうやらここで、壮絶な殺し合いがあったらしい。


 隊員たちはシェルターでも最も大きな広場に座り込んでいた。誰もが憔悴している。この地獄絵だ、仕方がない。

「ねえ、隊長。何があったんでしょうね? 何不自由ない生活ができただろうに、どうして殺し合いなんか」

「そういえば、この核シェルターには美しい庭園があるはずだったよな。どうやら、その庭園とは、いま我々がいるこの場所らしいぞ」

 隊員たちは周囲を見渡して、そして納得した。あちこちに植えられた樹木は全て折られるか、焼かれている。足下には枯れた草花が広がっていた。だが想像はできる。さぞかし昔は美しい庭園だったのだろう。

 隊員のひとりがぽつりと呟く。

「綺麗な庭があっても……手入れするような人間が、ここにはいなかったんだな」

「そりゃ当然さ。核戦争を起こした癖に、人類を見捨てて、真っ先に逃げた連中だからな」

 もはや、隊員の誰もが理解していた。核戦争を引き起こし、逃げた先でも「彼ら」は互いに助け合えなかった。憎み合い戦うことを、やめられなかったのだ。地上に残された人々は協力し合って、生き残ったというのに。

 隊長は残念そうに溜息をついた。

「核シェルターといえば、生き残るためのものだろうに。そこで絶滅するとは皮肉なものだ」

「ともかくは前世紀のバカどもが、まとめていなくなったんです。人類の未来は多少なりとも、明るくなりますよ」

 誰かのいった冗談に場が和む。

 百年が経過しても問題なく動き続ける水循環施設により、噴水だけがキラキラと輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ