第五十一回 小人と幻
全身がビクンと痙攣を起こすと共に、意識が鮮明になった。慌ててヨダレをぬぐう。
彼はシステムエンジニア。悲しき社畜。現在、デスマーチの真っ最中。徹夜三日目である。
「うーあー、すんません。いま完全に意識が落ちてましたわー」
「おいおい、しっかりしろよー」
時計は午前二時を回ったところだ。手だけは動かしながら、だが眠気覚ましのために、話題を探す。
「御伽噺に、靴屋の小人っているじゃないですかー」
「ああ、知ってる知ってる」
「あの小人って働き者んトコに来るっていいますけど、なんでウチに来て代わりに仕事してくれないんでしょうねー。俺が寝てる間に誰か仕事をしてくれてないかなーって、なんも進んでないのを確認して、ガッカリですわー」
「ははは」
とソコで会話をしていた相手が、パソコンモニターの影からヒョッコリと姿を出した。
「オイラはさっきココに来たばっかりなんだから、仕事が進んでいるわけないだろ?」
「うぎゃあああ。小人が本当にいたあああ!?」
とそこで全身がビクンと痙攣を起こすと共に、意識が鮮明になった。窓の外は明るい。既に朝だ。パソコンの画面を確認する。
ドアを開ける音がした。ひとりで勝手に帰宅していた部長が、出勤してきたのだ。デスマ明けのシステムエンジニアはデータを保存すると、上司に告げた。
「仕事終わったんで、帰らせてもらいやーす」