第四十九回 萌え絵格闘技
白いマットのプロレスリングに今日も戦いの嵐が吹き荒れる。
若手レスラーの伊達増九はリング外まで吹っ飛ばされた。そのまま転がり、リング下へ姿を消す。
「うわーん、やられちゃったよー、ママーン」
「へっへっへ。誰か俺たちに勝てるヤツはいねえのかよ」
リング上では残虐レスラーが勝ち名乗りのマイクパフォーマンスをしている。
と、どこからともなく声が。
「待てぇいっ!」
何者かの影がリング下から飛び出したかと思うと、トップロープに立つ。それは、謎のマスクレスラーだった。だが単なるマスクレスラーでは、決してない。
残虐レスラーは驚愕していた。
「な、なんて萌えるマスクだ」
そのマスクには、今期でもブヒ層に一番人気のアニメ『キュンキュンおねえちゃんズ』のヒロイン・敏上宮姉香の二次創作絵が描かれていたのだ。
謎のレスラーはどこからともなくマイクを取り出すと、自己紹介を始める。
「我が名はマスクド壁サークル! 優しい心を忘れた貴様を、萌えでホッコリさせてやる!」
「なんだと~、ナメやがって。痛い目みせてやる」
挑発に乗せられた残虐レスラーは、マスクド壁サークルの顔面を殴ろうとした。その瞬間、あることに気付く。
「こっ、これはコミケ三日目でも有名な同人サークル『らぶりんパラダイス』さんの絵に間違いない。殴れないっ、俺にはこの、ヤフオクで後日プレミアムがついてしまう絵は殴れないっっっ。第一、俺は姉萌えなんだよォォォ!」
「お願い、やめて。わたしに乱暴する気でしょう。薄い本みたいに!(裏声)」
自らが萌えキャラになるとは、マスクド壁サークル恐るべし。と残虐レスラーの動きが止まっている間に、マスクド壁サークルは関節技をかけた。
「食らえ! 萌えひしぎ十字固め」
「なんでえ、こんな技。すぐに外してやるぜ……」
と手を伸ばした残虐レスラーに、マスクド壁サークルから何かが手渡される。
「スケブ、描いておきました」
「うおお。『らぶパラ』さんによる姉香ちゃんのM字開脚絵とかマジっすか。しかも鉛筆手書き。綺麗な線をしてやがるぜ……萌え~」
結果、残虐レスラーはスケブの絵を見るのに忙しく、関節技を外せない。恐るべき必殺技であった。かくして試合終了のゴングが鳴る。勝者は、マスクド壁サークル。
「はっはっは。萌えは強し」
「あっ、あの次の本、楽しみにしてますんで!」
残虐レスラーにサムズアップで応えると、マスクド壁サークルは去っていった。
「マスクド壁サークル……一体何者なんだ……」
リングに謎と萌えを残して。
次回予告!
マスクド壁サークルに送られた恐るべき刺客。限定五部の判断ミス。直前で新刊売り切れの悲しみが、怪物を誕生させた。ヤツには姉萌えも通用しないのか?
次回「ショタスキー・ブルドーザーの恐怖」お楽しみに(続きません)
小説書き仲間の、ちゅーん君からもらったお題になります。だから、続きは書かないったら。