第四十三回 ワープと像
ちゃーらーらーちゃー。重苦しい音楽が鳴り響き、番組が始まった。
「さぁっ、果たして超能力は存在するのか? 驚きのエスパーが登場です。スタジオから、実況の江洲屋さーん」
「はいっ、こちら実況の江洲屋でーす。現在、超能力者の方がこのっ……大きな岩に向かって精神を集中しているところなんですねー」
場所は屋外。うさんくさい男が岩に向かって荒く呼吸をしている。
「では聞いてみましょう。超能力者さァん。超能力者さんは、どんな超能力を見せてくれるんですか?」
すると男は出来る限りの真剣な口調で答えた。
「瞬間移動だ」
途端にスタジオの観客からどよめきが起こる。
「だが瞬間移動とはいっても、普通の瞬間移動ではない。この岩の中に、我が透視したモノと同じ像を寸分の違いもなく生成してやろう。いわば、瞬間複製!」
カメラはスタジオに戻る。すると司会者が暗幕を指さした。
「そして~、今回超能力者さんに透視・複製してもらう像が……こちらになります!」
司会者が暗幕を翻すと、中にあったのは椅子に座った人の像だ。
「こちら特別にお借りしてきました。まさしく人類の至宝。『あんまり考えてない人』の像でえす。もちろんこの像の正体を、超能力者さんは知りません」
「すごいですねー」
驚く実況。情報が完全に筒抜けであったが、そんなこと関係なしに番組は進む。
「では、超能力を見せてもらいましょー。超能力者さん、お願いしますっ!」
男は合図にうなずき、「クキェェーーッ」と奇声を上げた。そして、足下に用意してあったトンカチとノミを手に取り、トンカントンカンと岩を削り出す。
そのまま五分が経過。何かの変化が起こる気配は一向にない。
「あ、あのー、超能力者さん? 何をなさってるんでしょう?」
「透視したものと同じ像を掘り出しているに決まっているじゃないですか。岩の中にあるんだから」
「で、その作業は後、どのくらいの時間がかかるんでしょうか?」
「この像を造った作家は、この像を造るのに、どれだけの時間をかけたか分かるかい?」
「えっと……確か十年以上かけて造ったとか……」
「ならば我もこの像を掘り出すのに十年以上はかかるな! なにせ寸分の違いもない複製であるがゆえに。えっへん!」
と自慢気に胸を張る超能力者。実況はその返答に唖然とするが、すぐに立ち直った。
「は~い、現場は少し時間がかかるそうなので、カメラをスタジオに戻しまーす」
「はいこちらスタジオ。すごいですねー。楽しみですねー。では次の超能力者さんです!」