第四十二回 酒とスイッチ
「実は俺、酔うと別人格になるんだ」
サークルのコンパが終わって、呑み足りないからと僕んちに転がり込む。いつものパターン。ところが今日に限って、鈴木は驚愕の事実を僕に打ち明けた。
「な、なんだってー(棒読み)」
「いやいやマジマジ。酔って俺の自我が弱まることで、第二人格ガイアが覚醒するんだって……うぐっ!」
と、いきなり鈴木は胸を押さえて苦しみだした。
「おいおい、大丈夫か」
が再び唐突に、今度は何事もなかったかのように立ち上がる。
「我が名はガイア。鈴木の第二人格であり、地球の守護神であ~る」
「本当にガイア、出ーたー」
「本田よ、この者・鈴木には実は悲しい過去があったのだ。だから別の人格を作ってしまったのだ。それが酒に酔うと出てきてしまうのだ」
「なんですとー。だったら、鈴木が酔っている間に記憶を無くしているってのも、説明ができるっ!?」
「そうだ。鈴木は記憶を無くしているぞ。だから先週にお前から五千円借りたのも我が輩だから、鈴木は憶えてないぞォ」
「あー、あくまで金を借りたのはガイア様ですもんね。それは仕方ない。なんせ鈴木には悲しい過去があるもんな、悲しい過去」
「んむんむ、心優しい青年よ。その優しさに応えて、ガイアがひとつだけ願いを叶えてやろう。何でもいってみろ」
本田は数秒だけ考え込んでから、願いを告げた。
「鈴木にはもう酒をやめさせて下さい」
「オイオイ、そりゃねぇよ本田~」
「やっぱり憶えてんじゃねえか」
とソコで本田がチョップで頭を小突くと、鈴木はぺろりと舌を出した。