第四十一回 おいしくて落ちたホッペタをおいしく料理して食べる
世はグルメ時代。未知なる美味を探究する時代。そして我が輩は世界一の美食家である。今より伝説にある美味を堪能するところだ。
古代中国の故事に、喰えば不老不死になるという不思議な肉の塊、太歳[たいさい]というものがある。この太歳の正体を、我が輩は遂に突き止めた。それは、余りに美味しい食事をしたために落ちてしまう、ホッペタのことだったのだ。しかも落ちたホッペタは、その際に食べたものより一段階上の美味さを持つという。
ん? なぜそんなことを知っているのかって? それはな……我が輩が世界一の美食家だからだよ(キリッ)
というわけで早速、現・世界で最も美味い料理をここに用意してある。我が輩はこの料理を食べたことはない。今まさにこの時のために、ずっと食べなかったのだ。きっと我が輩は感動の余り、ホッペタが落ちてしまうことだろう。
えっ? 世界で最も美味い料理を食べたことがないのに、なんで世界一を名乗れるのかって? それはな……このことを差し引いても、やっぱり我が輩こそが世界一に相応しいからだよォ(ドヤァ)
では早速、現・世界で最も美味い料理を食すとしよう。ハグッフモッングングフハッ! んまーい! ホッペタが落ちそうだ。
すると我が輩のホッペタは、鍋で煮込んだ餅のようにグニューンと糸を引きながら落下し、ぽてちんとテーブルの上に千切れた。
これだ! この我が輩のホッペタこそ、新・世界で最も美味い料理となるべき食材。つまり、さっきの皿は世界二番目にランクを下げたというわけだ、残念ながらね。
だが世界二位がいるからこその、世界一位。そう、我が輩のようにね(キラッ)
では早速、新・世界で最も美味い料理を作るとしよう。なにせ我が輩は世界一の美食家。美食も突き詰めると、自分で料理を作るようになるものだが。もちろん我が輩ほどの美食家ともなれば、料理の腕も超一流なのだ。
(あなたの方を見ながら)世界一だからね!?
遂に料理が完成したぞ! これこそ、真に世界で最も美味しい料理だ! では、実食だ。いただきます。
我が輩は一心不乱に食らいついた。うん、美味い。これは間違いなく、さきほどの世界一を越える、すなわち新たな世界一の美味さだ。だけど……なぜだろう。感動しない。ホッペタが落ちるほどの美味さではないというか。
おっと。落ちるホッペタなら、とっくに食べてなくなっていたのだった。
これならさっきの皿の方が、ホッペタの落ちる美味しさだったなあ。