第三十九回 トースターにカセット入れる
「ただいまー」
はあ疲れたわ。やっとパートが終わった。さて、さっさと夕ご飯の用意しなきゃ。
玄関から着替えもそこそこに、台所へ直行する。すると幼い息子が一心不乱に、トースターの穴へビデオカセットを入れようとしていた。
「なにしてんのっ!」
慌てて息子の手からビデオカセットを奪い取る。危ない危ない。トースターが駄目になるところだった。いや、火事にでもなったら取り返しのつかないことになっていた。
「カセットはビデオに入れて見るものでしょ? パンを焼くところに入れちゃ駄目じゃない」
込み上がる苛立ちを抑えながら、出来るだけ冷静に冷静に息子を諭す。イタズラのつもりなのかしらね。こりゃー、留守番を任せてパートを入れたのは、失敗だったかなー。
すると息子は生意気にも口答えで返した。いやだわ、いわゆる第一次反抗期ってヤツかしら。
「違うよ! ビデオを見るには、この機械に入れるんだい」
「じゃあパンはどうやって焼くっていうのよ」
ホッペを膨らませてフテ腐れながら、息子は居間のテレビを指さした。
ププッ。私は思わず噴き出した。やっぱり子供の言い訳ね。テレビなんかで、どうやってパンを焼くっていうのよ。
と違和感を覚えた。
どこかから「ジジジ」という、タイマーが進むような音が微かにしている。耳を澄ませると、その音は確かにテレビの方から聞こえていた。いや正確にはテレビではない。テレビ台の中に設置した、ビデオデッキから聞こえているのだ。
ビデオデッキの、カセット取り出しボタンを何度も何度も押してみる。だが中にある何かが出てくる気配はない。しかも妙ね。気のせいか、デッキも熱くなっているような……?
私はカセット挿入口のカバーを上げて、中を覗き込んでみた。その瞬間、
ちーん。
こんがり焼きたてトーストが勢いよく飛び出して、目を直撃した。
成る程。息子は嘘など吐いていなかったというわけだ。もしかすると子供には、子供しか知らない。日々の生活に疲れた大人の忘れてしまった、不思議な世界があるのかもね。
「うぐおおお!」
……と目を押さえて悶えながら、私は心の中で綺麗にまとめに入っていた。
息子はどこに挿しているのやら、トースターから伸びたケーブルをテレビに繋いで、アニメを見てやがる。
「パンにジャム塗ると、マジうめぇ!」
いや、だからこれから夕食だってのに、パン食ってんじゃねえよ。コンチクショウ。




