第三十二回 恐怖と部活動
「すみませーん、入部希望なんですが」
宇城杓太郎はオカルト研究会の部室に入った。と同時にそこは既に心霊空間。暗幕が引かれて中は暗い。ただ中央の机にひとり、白い三角頭巾を被った人物が座っていた。
感じる……なんて強いオーラなんだ。杓太郎が怯んでいると、その人物はクククと笑った。
「ようこそ宇城くん。君が来ることは知っていたよ」
「なっ、なぜボクがここに来ることを……はっ! まさか予知能力?」
「いやただ単に、知り合いが一年にいただけの話だ」
がっくり。
「宇城くんの入部、歓迎しよう。だが注意してくれ。当研究部は単なるオカルト研究部ではない。本格的に恐怖するためのオカルト研究部だ。部室前の表札にも、そう書いてあっただろう?」
杓太郎は慌てて廊下に戻ってみると、オカルト研究部の表札には、確かに小さな字で上に「本格的に恐怖するための」と書いてあった。こんなの、誰が気付けるんだ。
「しっ、しかし。恐怖するための、どういうことなんですか? ここは普通のオカルト研究部じゃなかったんですか」
「オカルト研に普通も何もあったものではないと思うがな……ともかくココは心霊現象や超常現象を研究することが目的ではない。そう。我らが追求するのは、人の持つ恐怖そのものだ!」
「なにそれ恐い」
「ゆえに我々は、あえて霊能者ですら忌避し、誰も寄りつかないような心霊スポットですら積極的に調査を行っている。全ては恐怖するためだ」
「なにそれ恐い」
「結果、悪霊に取り憑かれ。祟られたとしても悔いはない。なぜなら我らの目的は恐怖することだからだ!」
「なにココ恐い」
「おかげで皆逃げてしまい、正式な部員は私ひとりのみ。オカルト研だけに幽霊部員ってわけだ。いや、もちろん本当の幽霊もいるんだけどね?」
「なにそれ恐い」
「だが廃部寸前だったトコロに君が来てくれて助かったよ! というわけで君の入部届なら既に用意してある」
「いや、ちょっと待て」
「ハンコならとっくに押してあるぞ。実印だ。興信所に頼んで入手しておいた。あっ、預金通帳と一緒にいま返しておこうね」
「恐い恐い恐い」
「というわけで、さあお互い部活に励もうと行きたいが、もう私は大学受験が控えてあるのだ。なので君が今日から新部長だ! 届け出はしておいたから、頑張ってくれたまえ!」
「……なにそれ恐ぁぁぁい!!」