第二十八回 鼻と生命
世間はもうじきクリスマス。とあるサンタクロースがトナカイの家を訪れていた。
「おっはー、トナ造くん。連絡くれへんから、コッチから来たでー」
「あっ、三郎さん……」
このサンタ、本名は三郎である。
「どしたん自分、マスクなんかして。風邪かいな? あー、そいで連絡とれへんかったんやな~。なんやなんや。自分と君との仲やん、水臭い。クリスマスまでに、な? 体調取り戻してこ」
「いや、ちゃうんです。見てくれませんか?」
トナ造がマスクを外すと、その下の鼻は、しょぼくれた梅干しのようになっていた。
「自分、どしたぁぁぁん!? 赤い鼻はトナカイのシンボルちゃうんかったん?」
「……トナ助先輩、憶えてはります?」
「お、おう」
「トナ助先輩もね、実は鼻がショボーなってはったんです。そんで引退したんすわ」
「マジでか」
真っ赤なお鼻のトナカイは、その鼻から輝きが失われると引退せねばならないという鉄の掟があるのだった。
「トナ助先輩、高血圧で油モン食うの控えるように、って医者にゆわれとったんですわ。でもそのせいで、鼻から輝きがなくなってもうて……どうしましょ。まだ自分、引退したくありまへんわ。結婚したばっかりやのに」
涙がぽたぽたと床に落ちる。と、ここで三郎は疑問点に気が付いた。
「あれっ? じゃあ自分も高血圧かなんかかいな。ゆうか、何で鼻が光らんなったん?」
しばらくの沈黙。トナ造は目を逸らした。
「おーい、おいって! コレ自分自身の問題やん。なに目ぇ逸らしてんの?」
「いいますー、いいますってー! ……角栓除去シート(ボソッ)」
「はあ!?」
「にゅるーって鼻の脂を取るヤツあるじゃないですかー。その角栓除去シートでぇ! 鼻の脂を取ってみたんですぅー」
「ちょい待て、自分なんでそんなことしたん」
「ええやないですかー。一回してみたかったんですってー。若気の至りですってー」
「で、このザマかいな」
互いに色んな意味で頭を抱える。
「もおええわ。ちょい自分、試しにその角栓除去シート、どないなってんか見せてみ」
「ええっすよ、はいどうぞ」
「って……なにこれ……めっちゃ光ってるー!?」
角栓除去シートに付着した鼻の皮脂は、薄暗い部屋を照らさんばかりに、まばゆい光を放っていた。
そして三年後。ふたりはノーベル賞の授賞式会場にいた。
「ねえ三郎さん」
「なんだいトナ造くん」
「まさかトナカイの鼻が輝いているのは、脂そのものが光っているからだとは、誰も思わなかったでしょうね」
「しかもその光の原因物質から、石油や原子力に変わる新たなエネルギーが発見されるとはな」
「あげくにその新エネルギーで人類から戦争がなくなってしまうなんて、誰が予想したでしょう」
「希望の見えない地球という暗い夜道に、まさしくお前の鼻が役に立ったということか」
「そしてこれぞ、まさしくサンタさんから人類の未来へプレゼント」
すると笑いながら、ふたり同時に言い交わした。
「「うまいこといいなや(笑)」」