第二十三回 ライオンと門
王は神から授かった、世界一の宝剣を代々管理していた。その王の悩みは、噂を聞きつけた盗人が絶えないこと。ある日、王は策を講じることにする。魔法使いに命じて、宝物庫のレリーフに魔術で命を宿らせたのだ。そして王はレリーフにひとつの使命を与えた。
「宝剣は相応しい者の手にあるべきだ。真の勇者のみを通せ。他は噛み殺してしまうが良い」
かくして、この宝物庫はレリーフの形状から、「獅子の扉」と呼ばれることになる。
噂を聞きつけた者が、我こそ真の勇者だと試しに「扉」をくぐろうとした。だが、全てライオンに噛み殺されてしまった。その度にライオンは
「ぬははは。宝剣を狙っての盗人など、真の勇者たり得るはずがないからな!」
と豪快に笑う。
盗人も変わらず忍び込んでいたが、全てライオンに殺されてしまった。その度にライオンは
「ぬははは。真の勇者ならば、盗もうとするはずがないからな!」
と、やはり豪快に笑うのだった。警備の必要がなくなり、王はたいそう安心しましたとさ。
ところが数年後、異変が起こる。
太古に滅んだはずの魔王が復活し、軍勢を引き連れて攻め込んできたのだ。しかし国の戦士は、ライオンの試しを受けて、屈強な者からいなくなっていた。
ならばと宝剣でもって対抗しようとしたが、誰も扉をくぐれない。
「やめときゃ良かった」
王は絶望するも、時既に遅し。王国は亡びる寸前でしたとさ。
とうとう城壁まで迫る魔王の手勢。そこへ颯爽と現れた若者。若者は無双の武勇で、王国の危機を救う。更には彼が軍の指揮を執り、戦況は逆転。魔王を倒してしまったのだった。宝剣は関係なしに。
人々は若者を真の勇者と称える。許せないのはライオンだ。今や勇者となった若者を、ライオンは呼びつけた。
「なにゆえ魔王を勝手に倒したのだ。世界一の宝剣がここにあるというのに」
勇者は腰に佩いた愛剣をライオンに示す。
「宝剣により武勲が成るのではない。剣は武勲を助けるもの。これは世界でも二番目の宝剣と呼ばれていた。だが使われてこその剣だからな。今ではこの剣こそが世界一だろうよ」
ライオンは怒り猛る。
「我の試しをなくして、何が真の勇者か。さあ扉をくぐるが良い。噛み殺してやるわ!」
勇者は高らかに笑った。
「勇者とは闇の中で民に求められ、後の物語に歌われることで名を残すもの。誰かに選ばれるものではない。ましてや、わざわざ死ぬと分かって試しを受けるバカなど、真の勇者がやるべきものではないわ。だからライオンよ、貴様にとって俺は臆病者で構わないぞ。魔王にでも立ち向かっている方が気楽だからな」
「ぐぬぬ」
ライオンは悔しがったが、何も反論できない。
「あやつが真の勇者などと、我は絶対に信じぬぞ。きっといつか、必ずや、必ずや真の勇者が我の下にやって来てくれるはず……」
かくして宝剣は誰からも存在すら忘れてしまい、ずっと埃を被ったままになったのでしたとさ。