第二十二回 槍とアンデッド
死者の集う冥府より魔王が到来。死霊を操るネクロマンシーの魔術を操る魔王により、王国中の死者がアンデッドとして墓より蘇る。そしてアンデッドに殺された人間も、魔王に仕えるアンデッドと化した。
いまや王国は死者たちに埋め尽くされ、滅びを待つのみであった。がそこへ勇者が現れる。戦況は一転。とうとう最終決戦を迎えることとなった。
王は宮廷付きの鍛冶屋に命じ、勇者に最強の刃を与える。
王室つきの鍛冶屋は自慢気に説明した。
「ついに完成したよ。対死霊戦用最終兵器。アンチ・アンデッド・アームズ。略してAAAだ。千人もの乙女たちが祈りを捧げ、聖別された炎で鍛えた。所有者に守りの加護を与えるだけでなく。アンデッドたちには攻撃力+10。疲労、肩凝り、眼精疲労にも効果があるぞ!」
いや、だからそのプラスじゅー、って何だよと思いつつ。勇者は壁に立てかけられていた包みを受け取った。
「もう魔王軍がそこまで来てる。じゃあ行ってくるぜ!」
そして勇者は魔王軍の前に立つ。魔王も最終決戦ともなると必死らしい。地平を埋め尽くすほど、すごい数のアンデッドだ。だが、こちらにはアンチアン……なんたらがある。
「見ろ! これが人類に託された希望の剣だ!」
勇者は包み布を解いた。すると中から出てきたのは鋭く銀に光る槍! 二度三度と勇者はその武器を見直した。
「えっ……剣じゃなくって、槍だったの?」
そしてアンデッドたちの軍勢を見渡す。向かっているのは死してなお魔力によって動く骸骨のアンデッド・スケルトンの軍勢だった。
「相手が骨じゃ、槍は刺さらねー!」
勇者の慟哭が戦場にこだまする。
槍では骸骨であるスケルトンに刺さらない。絶望する勇者の前に、王国兵たちが立つ。
「勇者殿! ここは我らに任せて、早く魔王のもとへ!」
「かたじけない!」
そうだ。勇者には使命がある。王国に平和を取り戻さねば。アンデッドの群れを、勇者は切り裂くように一騎駆けした。周囲で何度も王国兵たちの悲鳴が聞こえるも、決して振り向いてはならない。
そして勇者は魔王の前に対峙する。魔王は深くローブを被り、顔も見えなかった。が発散される魔力の凄まじさだけで、コイツが魔王と分かる。
「よくぞ来たな勇者よ……地上を支配する魔力を得るため、冥府へ赴き自らアンデッドと化した。この我が名こそ、ドクロ王よ。いざ尋常に勝負!」
フードを取り払った、その中の顔はしゃれこうべだった。勇者は手に持った、人類の希望を見直す。槍、か……。
「チックショオオオ! だから刺さらねーよ!」
勇者の慟哭が戦場に再度こだまする。
王宮付きの鍛冶屋は恐る恐る質問した。
「……で、結局どうしたんだい?」
「槍の柄のトコで殴り倒したよ!」
と勇者は、人類に託された希望の刃、であった棒を突っ返したのだった。