表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/100

第二十回 雲とペン

 私が子供の頃、神社の夏祭りに連れて行ってもらった時のことだったかな。わたあめ、射的、たこ焼き、くじ引きと色んな屋台が並んでいる中。ひとつの奇妙な出店が気になったの。

 そこは子供だけで人だかりができていたんだけど、売られているのはボールペンだけ。そう、ボールペンといっても普通のボールペンよ? 十本いくらパックで売られているような、ごく普通のボールペン。

 するとね、店番をしているオヤジがね、子供を相手にバナナの叩き売りみたいに口上を述べていたの。

「さあさあ、このボールペン。普通のボールペンじゃないよ。おいちゃんが高い山に登って、インクの代わりに雲を詰めてきた特別製だ」

 といってオッサンはキャップを外して、ボールペンを何度か宙に向けて振ってみた。すると飛行機雲のような線が空中に浮かんで、しばらくすると消えてゆく。もう子供たちは夢中よ。

 でもねー、値段が高いのって。一本千円もするの。それで誰も買うのを迷っていたんだけど。けど私は決心した。リンゴ飴も風船ヨーヨーも諦める。お祭り用に貰っていた、全お小遣いをかけてボールペンを買ったのよ。

 だけど買ったら不思議なもんでねー。不意に中身がどうなっているのか気になったの。それでオッサンからペンを渡されるとすぐ、尻のフタをクルクルッと回してね。開けちゃったの。確かオッサンに止められそうになっていたけど、間に合わなかったのね。

 そうしたら中からぼわんって、中に詰めてあった雲が一気に出てきちゃって。もう辺り一面、濃い霧で見えなくなって夏祭りは大混乱よ。気が付いたら霧が晴れる頃にはオッサンはいなくなっていたわ。屋台ごとね。まさしく雲隠れ。


「不思議なこともあったもんでしょ? で、その時のボールペンがコレでーす」

 じゃじゃーんという効果音つきで彼女は、ごくごく普通のボールペンを僕に手渡した。なるほど。確かに十本いくらパックで売っていそうな、安っぽいボールペンにしか見えない。

「といっても、その時に中身は全部出ちゃったみたいで、もう書けなくなっちゃったんだけどね」

「へー」

 まあ面白い冗談ではあったけど。僕は生返事を返しながら、何気なくキャップを取ってみた。なるほど、中の芯はインク切れで何も入っていないな。と振ってみる。

 途端、空中に幾筋かの白い線が、薄く描かれたかと思うとすぐに消えた。そんな馬鹿な。あれは冗談じゃなかったのかよ。驚く僕に、彼女はイタズラを見つかった子供のように、舌をぺろりと出し。

「やっぱり素人じゃ、こんなもんか」

 と煙に巻いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ