第十三回 牢獄と香り
昔々、インドのとある小国に、心優しく花々を愛する王子がいました。
ある日のこと、王子は花々を愛でている最中、花弁に隠れていた蜂に指先を刺されます。家臣たちは王子に無礼を働いた蜂を殺そうとしましたが、王子は逃がしてやります。
そんな王子を家臣たちは優しすぎると諫めつつも、慕っていました。
そんな小国に、隣国が攻め込んできます。
隣国の勢いは留まるところを知らず、王族だちは皆殺しになりました。王子も塔へ幽閉されます。そこでは食べ物を与えられず、餓えて死ぬまで放っておかれることになったのです。
ところが隣国は大王の急死により分裂。数年後に小国は自由を取り戻しました。
小国の戦士たちは、自らが仕えるべき王族がどこかに生き残ってはいないか。国中を探しますが、どこにも王族の血を受け継ぐ者はいません。
もはや王の血統は根絶やしになったのか。あきらめようとして最後に、戦士たちは王子が幽閉されていた塔に辿り着きます。
王子はもはや餓えて、生きてはいないだろう。そう思いながらも塔に入った戦士たちは驚きます。石造りの塔の中はまるで花畑のような香気に満ちていました。
実は王子が幽閉されてから、しばらくしたある日のこと。王子が身に纏った花気で、花畑があると勘違いした一匹の蜜蜂が、塔の中に迷い込んだのです。それは昔、王子が逃がしたあの蜜蜂。
これをきっかけに多くの蜜蜂が外と牢獄とを行き来することになります。そして王子は蜜蜂が運ぶハチミツを食べて、飢えを凌いでいたのでした。
ですから遂に王子を見つけた戦士たちは驚きました。王子が生きていたのにも驚いたのですが。牢獄の中は溢れるハチミツで黄金色に輝き、花畑よりもむせ返るような花気で満ちていたのですから。
そうして戦士たちに助けられた王子は、戦争で荒れた国を花々で満たし、平和に治めたということです。
半自動的にストーリーが浮かぶという、とある技法の運用実験として、非小説書きの友人にプロットを作ってもらいました。
お題を見た瞬間に友人が思いついたのは仏教説話にある、幽閉されたビンビサーラ王が餓えないよう、王妃が自分の体に蜂蜜を塗って面会していたという話だそうです。
だから似てしまうのは仕方ないにしても、生じてくる差異を楽しんでいただけたらと思います。