焦現
―微かな力みを帯びた摩擦の音、意識せずとも脳に響く秒針の音、心の臓が外に出ようと内で鼓動する。
息詰まりを感じつつも、大袈裟に机上の紙の上に積もった鼠色の散物を払い除けて手先を動かす。
外はとうに更け切って閑散としてる、この時間であれば、もう既に寝ていただろうか。
だが、今日は眠ってはいけない。
過ぎた自分の負債が
見誤った計算の弊害が
なにより
一過性の怠惰の蠱惑に全てを受け渡してしまった、その堕落が今を作っている。
ふたつの紙を交互に見つめ合う、模範と白紙
手先を動かす。
写す、写す、写す、写す、写す、写す、写す、写す
その繰り返し。機械的で、脳が腐り果てたようにも思える自身に心からの正論を言い続けた。
―時計の音を意識して、過ぎる時を実感する。
じんわり熱を帯びる目元を拭い、さらに描き進める。何度繰り返すのか、自身に問い続けても、返しすら思いつかない。
ふと時刻を見る、短針は二を指している。
審判が下るのは、針が八を指す頃。
次に、目の前の紙を見つめる、到底減っているように感じられないそれらを見て、確かな絶望が六腑に染み込む。
背筋から、額から、焦れったく湿っぽい、微温の液が重力に従って行くのが分かる、ひたすらに、まだ手を動かす。
短針は止まることも急かすこともなく、一定に進み続ける。ただただ、唯一この場で落ち着いている。
針が五を指す。
一息。はたまた、諦観の宣言か。
まだ、元の白紙の要素が残る紙を見つめる。
多大な無能感と、果てのない疲労に身を預け、崩れたように突っ伏す。
束の間の休憩、そのつもりで。
あっという間に意識は、肉体という器からの離脱を終える。
意識を手放してる間、深い呼吸を繰り返す事は少なかった。
今、休息を取ろうとしても取れるはずがない、器だけは理解している。
時は、生きる現実は、一定の速さで変速しない。
それなのに、ただの感情だけで、時に焦らすように、時に急かすよう移っていく。
休息、そう名付けただけの逃避から覚めた末に
現実がゆっくりと再び、血液に焦燥を混ぜ込んで、嘲笑を浴びせる事を、本能で理解している。
こちらを追い続ける現実と、過去の負債から、逃れられないことを知っている。
にもかかわらず、器の顔は、疲労の解放を一身に浴びて、酷く安らいでいた。
また、一過性の安らぎに身を委ねて
閑散とした部屋、人光に照らされている机上には
模範と、それ以外の、まだ埋めるべき箇所のある模範だけが残っていた。
秒針は一定に鳴り続ける
負債を全部消化しないといけない。




