表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/24

9.冥戦士、【死者送還】で昇天しかける

 曲がり角から、少しだけ顔を出す。

 その先は袋小路になっていて、グールたちが不規則に動き回っていた。

 無理に倒す必要はないが、他の敵と戦っている最中に来られても厄介だ。ここで潰しておいた方がいいだろう。


「リゼット、俺が突っ込んで部屋の入り口で耐えるから、死者送還(ターンアンデッド)の準備できるか?」


「はい。大丈夫です」


 先ほどまで泣いていたとは思えないほどの切り替えの早さだ。


 俺は曲がり角から飛び出して、グールたちに向かって行った。

 部屋の入り口まで辿り着くと、グールたちは想像以上に中にいた。

 20体以上はいるだろうか。


 後ろをちらりと振り返ると、すでに詠唱に集中しているリゼット。

 俺は盾を剣で叩き【挑発】する。


 グール相手に【挑発】が通るか不安だったが、どうやら効いているようだ。


 最初の一体が両腕を突き出しながら近づいてきた。

 俺はそのグールを十分に引き付けた。


「シールドバッシュ!」


 直撃を食らったグールは、後ろの奴らも巻き込む形で数メートル吹き飛ばされた。

 よし、いい感じだ。

 俺は盾で攻撃を防ぎつつ、【シールドバッシュ】で弾いていった。


「いけます!」


 後方のリゼットから声が掛かった。


「よし! いいぞ! やれ!」


 俺の合図にリゼットが詠唱を始めた。


「まつろわざる者、怨執(おんしゅう)に囚われし者どもよ。我が聖言(せいげん)により、その繋縛(けいばく)から放還(ほうかん)す。死者送還(ターンアンデッド)!」


 俺をも巻き込んだ魔法陣が地面に展開される。

 まばゆい光と共に、グールたちは苦痛とも歓喜ともつかない大きな(うな)り声を上げた。


 光に包まれる。

 ほんの少し、温かい。

 体が温かいのではない。

 もっと奥――心の奥が、静かに癒されていく感覚だった。

 目を閉じると、幼い頃の思い出が蘇る。


 ――朝、父が目を覚ますところをあまり見たことがない。

 目覚めると、父は大抵工房にいるからだ。


 炉に火を入れ、ハンマーで叩き、焼き入れを行う。

 俺はこの焼き入れの作業が大好きだった。

 熱い鉄が水に触れ、気持ちのいい音を立てる。

 将来は父のような鍛冶屋になると、小さい頃はよく口にしていたものだった。


「――い! 先生!」


 耳元で聞こえたリゼットの声で我に返った。


「大丈夫ですか? なんだかぼんやりしていましたけど……」


 ……危なかった。

 あのまま意識を手放していたら、どうなっていたか……。

 もしかしたら、俺が冥戦士であることも関係しているのかもな。


 死者送還(ターンアンデッド)

 もしかしたら――。

 アンデッド以外も、どこかへ送り届けてしまう魔法なのかもしれない。


 だが、正直――気持ちよかった。

 ……また今度、頼んでみようかな。


 迷宮の奥に進む。現れたのは、またしても巨大猪(ビッグボア)

 直撃を避け壁に激突させるのが、こいつを倒すコツだ。

 初心者パーティはデカさと速さに圧倒されがちだが、攻略法を知れば意外と怖くはない。

 突進をいなして壁に叩きつけ続ければ、あとは勝手に自滅する。

 もちろん一撃でも食らえば終わりだ。

 できることなら、さっさと片付けたい。


「今回はちょっと試してみたいことがあるから限界突破(ブレイク)を使う」


「私、使わないでって言いましたよね?」


 リゼットが顔をしかめた。


巨大猪(ビッグボア)を正面から受け止めて、どれくらい耐えられるか知っておきたい。次の階層には回復陣がある。前に確認したが、限界突破(ブレイク)の副作用の心臓の痛みは消えた。……おそらく、生命力の上限も回復してるはずだ」


 10階層のボス部屋前には、傷を癒す魔法陣――回復陣が設置されている。

 それを使えば問題ないはずだ。


「分かりました。でも、無理はしないでくださいね?」


 大広間にて巨大猪(ビッグボア)と対峙する。

 いつも通り(ひづめ)で地面を抉り、鼻息を荒くしている。


「……来いよ。限界突破(ブレイク)!」


 巨大猪(ビッグボア)が俺を睨みつける。

 もはや、ほかの存在など目に入っていないかのようだった。

 

 一瞬の静寂。


 次の瞬間、雄たけびのような鳴き声を上げながら、巨大猪(ビッグボア)が突進してきた。

 ゴーレムの姿が、一瞬巨大猪(ビッグボア)と重なり、体が強張る。

 

 ……違う。

 こんなものじゃない。

 腰を落とし、衝撃に備えた。


 鈍い衝撃。

 重いが、耐えられないほどじゃない。

 これならいける!


 動きの止まった巨大猪(ビッグボア)の顔面に斬りかかる。

 巨大猪(ビッグボア)は、豚のような悲鳴を上げながらひるんだ。

 重心を落とし、剣を下に構える。


「はあああああ!」


 深く息を溜めたあと、巨大猪(ビッグボア)の顎下を下から思いきり斬り上げた。

 肉を切り裂く感触。手ごたえはあった。


 巨大猪(ビッグボア)は低く唸ると、そのまま地面に倒れた。今回は魔結晶は出てこなかった。


「解除――限界突破(ブレイク)


 心臓の痛みはある。だが、無視できるレベルだ。


診療記録(メディカルレコード)


 リゼットが俺の体を調べた。


「やっぱり減ってますね……1割くらいでしょうか」


 大広間を抜け、限界突破(ブレイク)について頭を巡らせる。


 1割。

 ということは、今回と7階層での戦闘と合わせて、1分か。

 1分間で、最大生命力が1割減るのか。

 限界突破(ブレイク)は一度解除すると、その後10分間は使えない。

 ……使いどころはしっかりと見極めないといけないな。


 通路を歩きながら考え事をしていた、その一瞬だった。

 足元から「カチッ」と乾いた音が響く。


 反射的に体を捻ったが、遅い。


 壁から発射された細い鉄針が、革鎧を貫き太ももへと突き刺さった。


 鋭い痛みと同時に、焼けるような熱が走る。

 ――毒だ。


 本来の装備であれば、この程度の罠は弾けたはずだ。


 歯を食いしばり、膝をつく。

 心臓が早鐘のように鳴り、視界がわずかに揺れた。


「先生!」


 駆け寄る足音。


「キュア」


 杖から放たれた柔らかな光が患部を包み、熱が引いていく。


 ゆっくりと空気を肺に送り込んだ。


 鉄針を引き抜き、地面へ放る。

 乾いた音が、通路に小さく響いた。


「ヒール」


 ……助かった。


 ソロの頃なら、今ごろ必死で解毒薬を探していたはずだ。


 今は違う。

 それだけで十分だった。


 9階層の階段へと辿り着いた。

 ここを降りればいよいよ最下層だ。


 リゼットと目を合わせる。

 言葉はいらなかった。


 静まり返った階段を、一段ずつ踏みしめる。


 10階層。


 それまでとは空気が違った。

 音が消えた。

 盾を握り直す音が、やけに大きく聞こえる。


 視界の先には、巨大な扉。

 その前に佇む女神像と、淡く光る回復陣。

 信心深くない俺でさえ、女神像から視線を逸らせなかった。


 回復陣の前で腰を下ろすと、心臓の痛みがゆっくりと引いていくのが分かった。


「作戦を説明する」


 リゼットが杖をきつく握りしめた。


「テルン南迷宮最下層のボスは、地獄蠍(ヘルスコーピオン)。デカい蠍だ」


 蠍という言葉にリゼットの眉がピクリと動いた。


「まずは尻尾を切って毒針を無効化する。正直ここさえ乗り切れば後は何とかなると思ってる」


 毒針を落とせなかった時のことは説明しない。

 そんなことをしても、リゼットを余計に不安がらせるだけだ。


「毒針ですか……」


「リゼットの立ち位置だが、必ず俺の後ろにいろ。地獄蠍(ヘルスコーピオン)は目はあまり見えていない。だが音に敏感だ。リゼットが俺の後ろにいてくれれば、俺が絶対に守ってやる」


「はい」


「だが、トドメだけは奴の背中に登る必要がある。その時だけは離れる。すまないが、自分の身は自分で守ってくれ。動かなければ奴に捕捉される心配はないと思うが――」


「……はい」


 消え入るような声だった。

 無理もない。

 後衛にとって、前衛が離れる瞬間ほど怖いものはない。


「リゼット、俺たちなら必ず地獄蠍(ヘルスコーピオン)を倒せる。いいな?」


「……はい!」


 目つきが変わった。

 力強く俺を見つめ、リゼットは覚悟を決めたようだった。


「行くぞ」


 俺は巨大な扉に手をかけた。

 石の冷たさが手のひらに伝わる。


 重い音を立てて、扉がゆっくりと開き始めた――。


 隣を見ると、不安げに俺を見つめるリゼットがいた。


「怖いか?」


「怖くありません」


 杖を持つ手が震えている。


「そうか」


「はい」


 リゼットは、俺に心配をかけまいと必死に不安を押し殺しているのだろう。


「勝つぞ」


 前だけを見つめる。

 自分に言い聞かせるように、小さくそう呟いた。

お読みいただきありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ