6.私じゃダメですか?
リゼットは、青く澄んだ瞳で真っ直ぐにこちらを見つめながら、そう言った。
「も、もちろん、私と先生とじゃランクが違うし、釣り合ってないことも分かってます! だから、テルン南迷宮を攻略するまで――それまでの間だけでいいので、色々教えてくれませんか?」
期間限定のパーティ勧誘。
「仲間がケガをしたので、一週間だけパーティに入ってほしい」
「フロアボスを倒すためにタンクとして一日だけ入ってくれないか?」
そんな誘いはこれまで何度も受けたことがあるし、実際にお世話になったこともある。
だが、それは代役としてだ。
リゼットと一緒に南迷宮へ行くこと自体は、悪くないことだと思う。
だが、リゼットはパーティを組んでいたはずだ。
期間限定とはいえ、引き抜かれた側は気分がよくないだろう。
揉め事を起こしたくはないし、断ろうと口を開いた。
「リゼットにはもう仲間がいるんじゃないか?」
確かガルドとセラと言ったか。
その仲間を差し置いて他の人と組むのは、あまりいいことじゃない。
「えっと、実は……」
それからリゼットたちのパーティに何があったかを聞かされた。
話を要約すると、リゼット以外の二人は同じ村出身の幼馴染らしい。
女の子が辞めて村に帰るなら、俺も辞める――そんな話のようだ。
周囲の忠告を無視して危険な階層に踏み込み、命を落とした冒険者を、俺は知っている。俺は二人が辞めるその決断は間違っていないと思う。
無茶をして最悪の結果になるより、自分の実力を理解し、踏みとどまる決断をする方がはるかに立派だ。
「そうか、じゃあ今はフリーなんだ?」
「はい……先生、私じゃダメですか?」
断られると思っているのだろうか、リゼットの目は少し潤んでいた。
「ダメじゃないよ。俺でよければ、一緒にパーティ組もうか?」
「っ! は、はい! もちろんです!」
リゼットは、再び酒場中に響く大きな声を出し、皆の注目を集めていた。
久しぶりに心が踊っている。
頭の中ではすでに、立ち位置やキャンプ地点、気を付けるべき敵のことを考え始めていた。
レオポルドたちといるときだって、最初はワクワクしていた。
上位帯のパーティにスカウトしてもらって、浮かれていたからだ。
だが、少しずつ理想と現実は違うのだと知っていった。
灼熱の誓いの一員として、ダンジョンを探索していたときは、一言で言えば、窮屈な時間だった。
レオポルドたちに迷惑をかけないようにと事前に準備をし、作戦を考え、必死に食らいついていた。
レオポルドたちとパーティを組んでいた頃は、楽しいなんて感情、抱いたことがなかった。
だが今は、リゼットと一緒に迷宮攻略が出来るかと思うと、楽しみで仕方なかった。
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそだよ。ご馳走になっちゃって。ありがとう」
店を出てからも、リゼットは終始ご機嫌だった。
「先生、私がんばりますね」
胸の前で拳を握りやる気をアピールするリゼット。
「頑張るのはいいけど、そんなに緊張しなくていいからね。ちゃんと俺がフォローするからさ」
俺はリゼットを宿屋まで送り届けた。
「では先生、また明日! 遅刻しちゃだめですよ!」
リゼットと別れ、家路につく。
振り返ると、彼女は俺との別れを惜しむように、いつまでも大きく手を振っていた。
――翌朝。
教会の朝の鐘の音と同時に、俺たちはギルドの前に来ていた。
「おはようございます! パーティ登録ですか?」
「いや、共同探索でお願いします」
俺はクレアにそう伝えると、テルン南迷宮の探索申請書にサインをした。
手続きを終え、俺は先に南迷宮へ向かった。
リゼットは忘れ物をしたらしく、宿屋に一度戻ってから来るようだ。
今のうちに最終確認しておくか。
魔法の小袋からアイテムを取り出しながら、忘れ物がないか確認する。
救急セット、携帯食、水筒、マップ、武器、装備、低級回復薬。
よし、忘れ物はなさそうだ。
「すみませーん! 遅れてしまいました!」
「大丈夫だよ。ちょうど忘れ物がないか確認していたところだから、一緒にチェックしようか」
走ってきたのだろう。
リゼットはその場にへたり込み、肩で息をしながら気まずそうに小さく笑った。
南迷宮1階層。
中に入ると、リゼットの顔つきが変わった。
さっきまでの、のほほんとした顔つきとは打って変わり、周囲を警戒している。
暗闇の先から、骨がぶつかる音が聞こえる。スケルトンだろう。
「ちょうどいい。杖で倒してみようか」
「ええ!? 私がですか!?」
「ヒーラーだって近接ができるに越したことはないからね」
「は、はい……」
リゼットが両手で杖を構え、スケルトンを待ち受ける。
「腰が引けてるよ。大丈夫。いざとなったら俺が助太刀に入るから」
覚悟を決めたのだろう。
リゼットから怯えの表情は消え去り、唇をきゅっと真一文字に結んだ。
スケルトンは剣を振りかぶり、リゼットめがけて斬りかかってきた。
「きゃっ!」
リゼットは目を閉じ、腕で体を庇おうとした。
俺はスケルトンのその斜め斬りを、素早く盾で弾いた。
「ほら、大丈夫だから。まず剣の軌道をよく見て、避けることだけに集中するんだ」
「は、はい!」
杖を両手でしっかりと握りしめ、スケルトンと再び対峙するリゼット。
スケルトンは、先ほどと同じように剣を構え、振り下ろす。
その瞬間、リゼットは後方へとステップ回避をした。
「うまいぞ! もう一回それやってみよう」
リゼットは、スケルトンの攻撃を再びかわす。
「よし、次は杖で攻撃だ。回避したらすぐに思いきり殴りつけるんだ」
「はいっ」
回避した後、リゼットは両手で杖をしっかり握りしめた。
リゼットは俺の教えに忠実に、スケルトンの頭めがけて杖を振り下ろした。
乾いた音が通路に響いた。
だが、スケルトンはまだ倒れない。
もう一度杖を振りかぶり、リゼットは渾身の一撃を叩き込む。
骨が砕ける音がしてスケルトンはその場に崩れ落ちた。
「先生! やりました! 私、スケルトンを倒せましたよ!」
「うん、すごいよ。リゼットは筋がいいね。飲み込みも早いし。それに俺が言わなくてもスケルトンにトドメを刺してたよね。なかなかできることじゃないよ」
「せ、先生。褒めすぎですよ~」
リゼットはそうは言いつつも喜びを隠しきれない。
にまにまと頬が緩みっぱなしだ。
「リゼットさん、ほらまた別のスケルトンが! よろしくお願いします!」
「もうー。仕方ないですねー。このスケルトンスレイヤー、リゼットさんに任せなさい!」
胸を張って歩いていくリゼットの前に現れたのは、
――スケルトン二体。
涙目で敗走するリゼットを見て、俺は腹を抱えて笑うのだった。
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